『お前ライダーマンみたいなやつだな』と言われた男の戯れ言

山梨瑞木

第1話 ライダーマン

 『お前、ライダーマンみたいなやつだな』


 と上司に言われたことがある。もう15年くらい前になるだろうか。


 僕は仮面ライダーシリーズをまともにみたことがない。僕より上の世代は「藤岡弘、」に代表される昭和ライダー世代であり、下の世代は平成ライダー世代である。

 僕の世代はちょうどライダー空白世代なのだ。


 だからライダーマンなんて知らなかった。


 いや、存在自体は知っていた。顔が半分露出し、腕にコブラのサイコガンみたいなものを付けているやつ。


 なんかこう変態っぽさがあって、普通の仮面ライダーとなんか違うやつ、という認識はあったが、「ライダーマンみたいなやつ」がどんなやつか全然知らなかった。

 その上司とは仲が悪かったし、少しトゲのある言い方に褒め言葉ではないだろう、とは思ったが、別に気にも留めなかった。

 

 先日、その意味がわかった。


 先輩と後輩と三人で居酒屋に行ったとき、仮面ライダートークが始まったのだ。

 後輩にはちょうど仮面ライダーに憧れる年代の子供がいる。

 一緒になって仮面ライダーを見ているらしいが、令和ライダーが面白いだなんだからトークが始まり、自分の好きだったライダーの話になっていった。


 何度も言うが、僕は仮面ライダーシリーズをまともに見ていない。


 いや、一度見ようとしたことがある。


 バイクじゃなくて電車に乗ってくるライダーが登場、さらに秋山莉奈という尻フェチのアイドルが出演する作品が始まる(調べたら電王というやつだった)というのに興味を引かれたのだ。    

 日曜の朝に早起きするのが辛くて一話だけしか見なかったのだが。


 それは良いとして、仮面ライダー空白世代にとって仮面ライダートークは退屈でしかない。


 そんな時にふと思い出したのだ。

 ライダーマンのことを。そしてちょうど良い機会だと思い、先輩に聞いたのだ


 「ライダーマンってどんなやつですか?」


と。


 先輩は「へっ」と吹き出し、見下したような半笑いの表情でこう言った。


 「ライダーマンね、あいつはとにかく嫌われてた。子供同士でライダーごっこするだろ、怪人よりも人気がなかったんだぜ。

 とにかく弱いし。しかも戦う理由が正義じゃなくて私怨。顔が半分ねぇし。仮面ライダーじゃねぇから」


 顔は半分ある。半分ないのはマスクだ。

 という突っ込みはさておき、なるほど、あの上司は僕のことをそう見てたんだなと、少しムカつきを覚えつつもライダーマンというキャラに興味を覚えた。


 そんなに嫌われ馬鹿にされるキャラなのか、ライダーマンとは。


 二人がライダートークに夢中になっている間、僕はスマホでライダーマンについてずっと調べ、大体のことが判明した。


 ・ライダーマンこと結城丈二は、悪の組織デストロンの幹部研究者であったが、大幹部のヨロイ元帥に妬まれ、反逆の濡れ衣を着せられ処刑されそうになる。

 ・身体能力を向上させるスーツを着てライダーマンとなりヨロイ元帥に復讐を誓う。

 改造人間ではなくライダーのコスプレ衣装。

 ・デストロン首領には恩があるため忠誠を誓っている。仮面ライダーの攻撃から庇ったりする。

 ・弱い。仮面ライダーの足手纏いになっている。

 ・知的キャラの癖にバカ。どう考えても悪の組織デストロンをユートピアを作る組織だと真面目に信じていた。

 さらに誘拐された子供を返して欲しければ仮面ライダーを殺せという怪人の指示に従ってしまう。もちろん仮面ライダーには勝てない。ライダーマンだから。

 ・最後はデストロンが悪の組織と理解し、東京を狙うミサイルと共に自爆するが、当時の子供は全然悲しまなかった。


 なるほどなぁ。こりゃ子供に嫌われるわ。子供にとっては、強くてカッコいいのは必須なのにこれじゃあな。


 しかし、僕のことがただ嫌いというならライダーマンなんて例えは使わないのではないか。

 さらに調べてみると、


 ・死んだと思われていたが、実は生きておりライダー全員集合のようなお祭りイベントには参加する。

 ・弱キャラ設定は改善されイベント時にはそこそこの活躍をする。

 ・主人公になったことがない。でも陰ながら応援するファンがおり、ライダーではないがライダーとして扱われている。


 という好評価も得られていることが判明した。


 つまりこういうことか。

 

 当時新人であった僕は一人前(仮面ライダー)ではなかった。そしてまだ視野が狭く全体を見ての仕事ができておらず、自分の仕事のみに固執していた。一部からはかなり嫌われていた。まさにライダーマンである。


 しかし、いつかは仮面ライダーになるだから頑張れ。活躍して見せろ。


 ということなのではなかったのか。あの上司、嫌なやつだったが僕のことをそこそこ評価してくれてたのかなと思い少し嬉しくなった。


 しばらくして仲の良い中学時代からの友人(僕と同に仮面ライダー世代ではない)に


 「ライダーマンって知ってる?」


と聞いてみた。


 「知ってるよ、あのチョーだせえやつだろ」


 いや、僕はまだ「ライダーマンみたいなやつだな」の意味を理解することができていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『お前ライダーマンみたいなやつだな』と言われた男の戯れ言 山梨瑞木 @kuni0092

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ