第9話 逃避行?

 電車に乗っているとき、わたしは怒りが収まらなかった。

 なんで父さんも母さんも、自分には進路を押しつけるんだろう?

 萌々ももには進路は自由にしてもいいって言っておいて、不公平な気がする。

 こんな感じで家を飛び出してきたのは、生まれて初めてだった。

 乗り換えのホームである人に電話をした。

「もしもし?」



 わたしが向かったのは望悠みゆちゃんの家にやって来た。

「逃避行をしちゃったってわけね……」

「うん。そうなの、望悠ちゃん……ごめんね。押しかけて来ちゃって」

「事前に連絡してくれたから、準備はできてるよ? コロナウイルスがまだ怖いから、あんまり出かけない方がいいのに」

 苦笑いをしていたけど家に入れてくれた。

 一人暮らしをしていて、自分の家からは一時間ほどで来れる。

「うん……父さんも母さんも、教職課程を取らせたいって言われた」

 話を始めるとやっぱり、愚痴しか出てこない。

「どんだけ自分と同じ職業に就かせたがるんだろう? 望悠ちゃんはどう思う?」

 望悠ちゃんは母さんの妹で、高校二年生のときに望悠ちゃんが生まれたって聞いたから十七歳下の妹になる。

 そのため年齢は三十歳になったばかり(潔く話してくれる)、いまは音楽の非常勤の先生になっている。

 望悠ちゃんとは年の離れたお姉ちゃんみたいな存在で、音楽の教員免許を取ったけど常勤の教員ではないのは、親戚のなかでもイレギュラーなタイプだった。

「姉さん。まだ菜々ちゃんに教員になってほしいんだっけ?」

 望悠ちゃんには電話で愚痴のように聞いてもらったから、その話を詳しく聞いていた。

「うん。萌々ももは教員にならなくてもいいって聞いたときは、信じられなくなりそうになったよ」

「そうよねぇ、二人目が生まれるとめちゃくちゃ可愛がるもん。わたしの場合はめちゃくちゃ年が離れたから、あんまり姉妹でケンカするのもなかったし」

 望悠ちゃんはココアを出してくれた。

「でも……昔からきつい接し方は抜けないのか、菜々ちゃんにはなんでそんな接し方するんだろ……って思ったし」

 親戚の集まりがあっても注目は萌々だった。

 わたしはしょっちゅう母さんに怒られていて、親戚の人たちには少しだけやりすぎだと言われていたのを覚えている。

 そのなかでも望悠ちゃんが、わたしにきつく接するのをやめてほしいと帰省するたびに話していたの。

 望悠ちゃんは心配しているけど、わたしはココアを飲み干してきつい口調で話した。

「大丈夫だよ。来てる場所、わかってるはずだし。明日には帰るつもりだから」

「かなり親子の溝が深いわね」

 やっぱり菜々ちゃんも母さんたちとわたしの仲が悪くなってると、ちょっとだけ思っているみたいだった。



 わたしはスマホで時刻を見た。

 午後六時五十分になったばかりだ。

 望悠ちゃんの家にやって来て、もう一時間近く経っていた。

「菜々ちゃん。今日は泊まっていきなさい。着ていない部屋着と使ってない布団を貸すから」

「ありがとう……望悠ちゃん」

 わたしの言いたいことはわかってくれて、望悠ちゃんはうなずいた。

「お風呂、先にいいよ」

 望悠ちゃんは部屋着とバスタオルを出してくれた。部屋着は高校のジャージみたい。

「うん、じゃあ。入るよ」

 わたしは浴室に向かった。

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