第8話 選ぶ人生と夢

 三月も中旬になった。

 萌々ももは高校の入学手続きを終えて、もう自由な感じになっていたみたい。

 それと引き換えにわたしに受験に向けて、話を始めることが多くなってきた。

 萌々は自分の部屋に向かうとそのまま部屋で、友だちと通話を始めたらしくたまに声が聞こえてくる。

 どんどん息が詰まってくるから、少しだけ家にいたくない。

 休みの日に父さんと母さんに進路のことを聞かれた。

「進路のことだけど。わたしは絶対に教員にはならないから」

「どうしてだ、菜々」

 父さんの高圧的に聞いてくるのが、まるで先生と接しているようで、とても嫌になってきた。

「……やりたいことがあるの、バレエとかの舞台の衣装製作をやってみたい。ずっと昔から考えてた」

 それを言ったときの父さんと母さんの表情は驚いて、少しだけ悲しそうな表情をしている。

 なんでそんな表情で見るの?

「菜々、その仕事は大変だぞ?」

「教員よりは大変じゃないよ。ニュースとかで、いじめとかあったりしてるし」

「どうして、そんな仕事をしたいの? 教員をやりたがらないの?」

 矢継ぎ早にわたしに話を始めてくる。それを簡単にはねのけていくので、父さんと母さんは少しだけため息をついている。

「文化祭で衣装を作ったときに、やりがいを感じられたの。ずっとこの仕事をやりたい」

「どうしてだ? 父さんたちは教員をやってほしいんだ」

「なんでそんなことを言うの?」

 両親はその声が全く違うので、びっくりしているんだ。

「菜々、成績は大丈夫なの? 藤池大の教育学部を推薦で行ける成績に上げてるの?」

「その話は違うでしょ?」

 我慢の限界が来そうだった。

美順みゆき……やめなさい。菜々が傷つくだろ」

 父さんが母さんをそっとたしなめているとき、わたしの方を見て謝ってほしいというような目付きをしていた。

 そのときに何かのストッパーが外れた気がした。

「うるさい! もう傷ついてるよ!」

 わたしはそう言いながら、父さんと母さんにジッと見つめる。

「え……」

「母さん、なんでいつも萌々と違う態度で接するの? わたしにこの前みたいな、接し方しないでしょ! 昔からずっとそうだよ」

 一息に母さんに話すと、母さんは顔を赤くしてうつむく。

「菜々、どうしてそんなこと言うんだ!」

 父さんのことも信じられなくなっていた。

「父さんだって……萌々ばっかり褒めて。わたしには褒めたの、数回しかないじゃん……もう家にいると息が詰まりそうなの!」

 わたしは深呼吸をして、父さんと母さんに感情をぶつけていった。

「自分の人生は自分で開かせてよ? 父さんと母さんみたいな、親のレールには敷かれたくない!」

 呆然としている両親を横目に部屋に向かった。上着と貴重品を全部入れたリュックを持って玄関に向かう。

 それを母さんがわたしを止めようとしている。

「菜々。どこに行くの!」

「しばらくの間は帰ってこないから。大学は絶対に自分の行きたいところに行くから!」

 そう言ってわたしは外へと飛び出していった。

「菜々! ちょっと、菜々!!」

 わたしは母さんの制止に振り返らず、ダッシュで走っていく。

 なんで自分の進路に親が関わってこないといけないの?

 学生時代、父さんと母さんは何の疑いもなく、教員の道を歩んでいたと思うと、少しだけ嫌になった。

 萌々が羨ましい……なんて思ったこともある。


 しばらく走ったところで、公園のベンチに座った。

 もう帰りたくない。

 LINEを開くと家族LINEのメッセージが結構来てた。

 嫌なので、少しだけブロックすることにした。

 心のなかでは怒りと悲しみがぐるぐると渦巻いていた。

 わたしは少しだけ考えて、スマホで乗り換えと交通費を調べてから駅に向かった。

 駅でチャージをして、すぐに改札口を抜けた。

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