第7話 合格発表とお祝い
まだ動揺しているのか、心臓がドキドキしている。
「はぁ……少しだけ、待っててって言っちゃったよ~」
――好きな子? 目の前にいるけど?
いままでそんなつもりで接しているわけじゃなかったのに……突然言われても。
わたしはベッドの上でジタバタする。
「雅人、何でうちのこと」
他にも同級生はたくさんいるのに……と考えてしまう。
そのとき、玄関のドアの鍵が開く音がして、ビクッと体が反応してしまう。
「ただいま~」
遠くから
リビングに行くと、母さんと萌々が話していた。
「うん、どうだった? 発表」
「受かってた! 都立南野高校」
第一志望校にしていた都立高校は近所にある進学校で、中学時代のクラスでもトップの成績を取っている子が多いような気がする。
「萌々。おめでとう」
母さんが隣にやって来たのは、その直後だった。
萌々は昼食を食べてなかったので、先にご飯を作っておく。
「先生に電話をしたら? 中学の」
母さんが話をしている。
「うん、する! お姉ちゃん、ご飯、作っておいて」
先生に電話をしていると、パスタを茹でていく。今日はミートソースをかけるのでもいいかな。
「お姉ちゃんがパスタを作ってくれたの! 母さんのもあるよ~」
母さんはチラリとこちらを向いた。
「そう」
と一言だけだった。
「それよりも、萌々は合格発表だったんでしょ?」
萌々に笑顔で話しかけると、得意気に合格したことを言っている。
ずっと毎日がんばっていたから、めちゃくちゃ母さんは褒めている。
「菜々。進路は?」
冷たい声のトーンでわたしに話しかけてくる。ずっと昔からそうだった。
「……決めた」
その言葉を言いかけたとき、母さんと萌々は昼食を食べ終えると着替えて外に出かけるようだった。
「じゃあ、萌々とケーキを買いにいってくるね、誕生日ケーキと高校の合格祝いを兼ねて」
萌々は小学生みたいに飛びはねている。
「ケーキ、チョコの高いやつにしてよ」
「はいはい。萌々」
母さんが笑顔でずっと萌々に答えている。
わたしとは全く違う雰囲気で、別人のように見えてしまう。
――どうして萌々と同じように接してくれないの?
それが言えたらいいのに……わたしは食器を洗っていく。
昔からずっと母さんは萌々とは違う接し方だ。
たまに母さんにはわたしが必要ないって思ってしまったときがある。
そのとき、玄関のドアが閉まった音が聞こえ、一人きりになった家のなかで泣き出してしまった。
父さんが帰ってきてから、萌々の高校の合格祝いと誕生日パーティーを始めた。
「菜々は進路を決めたのか?」
「まさか、家政学部のある所じゃないわよね?」
「大学受験では失敗するなよ?」
その言葉が心に突き刺さってくる。
やめて、それ以上言わないで。
高校に入学してから、ずっとこんなことを聞かれている。
――父さんも母さんも、萌々みたいに接してくれないの?
そう言えない。
だから家にいると息が詰まって苦しい感覚になる。
なかなかのどを通らない夕飯とケーキを強引に口に押し込んだ。
「ごちそうさま。部屋で勉強してくる」
部屋に入ると、わたしはベッドに倒れるように寝た。
せっかくのお祝いなのに素直に祝えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます