第6話 料理と安心
『今度の土曜にタコライス、作らない?』
テスト勉強の息抜きをしたいらしく、材料はもう調達済みというので、調理実習で書いたレシピと差し入れの飲み物、エプロンを持って雅人の家に向かった。
雅人の家は近くのマンションにあった。
わたしはすぐに二階にあがり、ドアのインターホンを押した。
「はーい。あら、菜々ちゃん。いらっしゃい、雅人からは話を聞いているから」
雅人のお母さんが出迎えてくれた。
「お邪魔します」
わたしは玄関で靴を脱いで、ダイニングキッチンの方へと向かうことにした。
「雅人~。いる?」
「あ、菜々。来たのか?」
そこにはラフな私服に黒のギャルソンエプロンをした雅人がダイニングキッチンから、ちょうど出てきたときだった。
わたしは少しだけびっくりして、固まってしまった。ドキドキしている。
「うん、さっきお母さんが」
「あぁ……確か、用事があって出かけるらしいから」
雅人は「メガネ、どこに置いたっけ?」と言いながら、リビングの方に向かう。
「メガネ……? あのいつもかけてる黒ぶちの?」
「うん。あれがないと、俺、そこのカレンダーの文字も見えないくらい視力が悪いもん」
雅人はエプロンのポケットを探っていると、メガネがあったらしくてそれをかけてキッチンに戻っていった。
「毎回、材料は母さんから材料費をもらってるし、調理実習の復習も兼ねてもう一度作ることにしてるんだ」
「どうりで、中学時代は家庭科の調理実習を含めたテストの点数高かったもんな……。その頭脳の少しだけ分けてほしいよ」
わたしはエプロンをしてから、雅人に打ち明けた。
「ん、それはともかく……高校の順位、めちゃくちゃ良いくせに。倉女って、お前の成績だったら指定校推薦、取れるだろ?」
「ねぇ、進路のことで迷っててさ」
手を洗って野菜を切りながら、相談をすることにした。
「進路のこと? お前、親といまも冷戦状態なのか?」
「いや……それがさ。ついこの前、大ゲンカしちゃって……もう冷戦どころか激戦の戦場のような気がする」
調味料の調合をしてから、炊飯器のボタンを押している雅人はすぐにひき肉を炒め始めた。
「菜々。玉ねぎのみじん切り、ちょうだい」
「ちょうど切り終わったよ、はい」
わたしはみじん切りにした玉ねぎを入れた小皿を渡す。
「でも、自分の人生に口出ししてくるのは、少しだけ嫌だよな。もう無断で第一希望の受験校にしちゃえよ!」
「するって。もう先生にも提出できるよ、結構書いてるからさ」
そこからひき肉とニンニク、調味料をフライパンにいれて炒めていく。
「雅人、ナツメグは? 入れてる?」
「やっべ! 菜々、ここ、代われ!」
わたしはやれやれと思いながら、彼とすぐに代わって炒めていく。
「あった。いま入れるよ」
雅人は目分量でナツメグを入れて、そのまま炒め終わると盛りつけの準備をすることにした。
「チーズを出しとけばいいと思うよ? 炊飯器の炊けたアラームが鳴ったしね」
わたしは炊飯器をふたを開けて、ご飯をお皿に盛りつけて、具材をどんどん乗せていく。
「よし。できた」
「うまそう~、早く食べるか!」
リビングでご飯を食べることにした。
わたしは食べることにした。
タコライスは調理実習のときよりもおいしくできていた。
雅人に聞きたいことがあった。
「雅人。何でわたしを呼んだの?」
「え? 何でって言われても……? お前といると何か安心するんだよな~、不思議と」
「安心か……うちもだな。不思議と雅人といると落ち着いてる気がする」
雅人とは幼稚園の頃からずっと一緒で、高校で初めてバラバラの学校に通うことになったの。
高校入学したときは不安になったことも多かったけど、ゆっちゃんと
「そういえば、雅人って……好きな子とかいるの?」
雅人はその言葉を聞いて、麦茶を吹き出しそうになっていた。しかも飲み込んでから、むせているし。
「雅人!? 大丈夫!?」
わたしは少しだけびっくりしてしまった。
「うん……大丈夫だ、てか。その話題振らないでくれよ……恥ずかしいし」
気になるんだから、仕方ないよ。
その言葉を口に出さないけど、伝わった気がする。
「好きな子? 目の前にいるけど」
その瞬間、時間が止まった気がした。
「え、雅人!? え!?」
心臓がバクバクと波打っている。
理解するのに時間がかかる。
「うん。菜々が好きだ」
「……雅人。返事、少しだけ待ってくれるかな? ちょっとだけ、お願い」
雅人が顔が赤くなったまま、食器を片付け始めた。
わたしもタコライスを食べ終わってから、すぐに食器を洗って家に帰ることにした。
「じゃあね! 雅人、また連絡する!」
「菜々、おい。忘れ物!」
その言葉に振り返らずに、ダッシュで家に帰った。
家に帰ると、すぐに部屋に直行した。
心臓が速く波打って落ち着かない。
「なんで……雅人。いきなりすぎるよ……」
わたしはベッドに座ると、知らず知らずに涙が溢れてきた。
雅人は不思議と同級生といるときとは、全く違う気持ちになった。
このとき、その気持ちは全くわからなかった。
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