第5話 焦りと迷い

「菜々、進路。どうするのよ?」

 母さんは進路のことで結構うるさく聞いてくる。

「教員免許が取れるなら、そのまま学校に行ってもいいけどね。菜々」

 母さんはそのまま家を出た。

 通勤には電車で一時間くらいかかるみたいで、名門で受験でも難関校と呼ばれる私立女子の中高一貫校なんだよね。そこの国語の先生をしているんだ。

 父さんは都立中高一貫校で数学の先生をしていて、たまに勉強も教えてくれたりもしている。

 母さんが言ったことが頭から離れない。

 もうそろそろ受験に向けての準備を始めないといけないのは、頭ではわかってるんだけど……どうしてもやる気が起きなくなっていた。

 やらなきゃいけないのはわかってるけど、あんまりやる気になれないことが多い。



 やることがないので、勉強をすることにした。

 カレンダーはいつの間にか三月に変わり、まだカレンダーには六日から十日まで修学旅行とマジックで書かれたままだ。

 それが現実にならなかったことが、少しだけ悲しい気持ちになる。

 机に向かうと、スマホで通信教育のサイトにログインする。

 その通信教育で配信される課題を解くというもので、終わってしまうとかなり暇になる。平日のみなので、ずっと毎日ということではないらしい。

 そのときに幼なじみの雅人まさとからメッセージが来ていた。

『最近、連絡ないけど…元気か?』

『雅人こそ、そっちは元気?』

 そのままLINEを始めることにした。

『うん。最近、全然会わないから』

『こっちは休校になったよ。後期期末テストが終わったから、もう休校を開始だって』

 雅人はまだ休校になっていなかった。

『もうそろそろ学活が始まるから』

 わたしはスタンプを送って、少しだけ気になった単元の動画を見ることにした。

 動画を見て、配布された両面刷りのレポート用紙に一単元ずつまとめていく。

 もちろんそれは毎日配信される課題の他にも好きな教科を見たりもできるので、日本史と世界史をよく見たりしている。

 幸いにも家にWi-Fiをこの前設置したばかりだから、ギガの心配をすることはなくなって思いっきり家で動画をよく見てしまっている。

 自制はしてるつもりだけど、ついつい見ちゃうのが本音。

「はぁ……進路個人カード、書かなきゃ!」

 三月十一日の登校日までに提出予定の進路個人カードというのは、進路に関する情報が書くカードのことで下書きの段階だけど。

 それの清書をして、進路の先生と面談をしないと専門学校や大学のAO入試とかを受けることはできなくなる。

「どうしよう……ん~」

 わたしは住所と通学方法、委員会と部活動、資格や検定試験を記入欄に書いていく。

 第一希望のところには一応オープンキャンパスに自分で行った大学の生活デザイン学科にした。

 第二希望の大学には父さんと母さんが勧めてくる大学の教育学部を書こうとしたとき、オープンキャンパスに行ったもう一校の大学服飾学科が浮かんできた。

「どうしよ……これ、勧めてきた大学も……う~ん」

 わたしが一番困ってしまうような気がする。

 オープンキャンパスには行ってみたけど、父さんたちが勧めてきた大学の校風が合わなかったんだよな~。

 そんな感じで進路個人カードには、第三希望に父さんたちが勧めてきた大学を書いて、ファイルにしまった。

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