第4話 色紙と感謝

 二月二十八日。

 今年は閏年でまだ明日がある。

 二時限目の授業が終わるチャイムを聞いて、そのまますぐに寄せ書きをした色紙を入れた袋を持って図書館に向かった。

「ゆっちゃん! 早く、歩花あゆかも来てるから。部長のあなたが行かないと、どうやって司会進行するの?」

 わたしが首根っこをつかんで、図書館にやって来ると文芸部が全員集合していた。

「先輩、すみません。残っていただいて」

「いいの。どうした?」

「寄せ書きを渡しに来ました」

 在校生の部員が一人ずつ先輩へ寄せ書きを渡すと、お互いに何回かお辞儀をする。

「卒業おめでとうございます、いままで部活のことでたくさんお世話になりました!」

「ありがとうね。みんな、来年度の文化祭には行くよ」

 先輩たちは少しだけ色紙を見るみたいだ。

 在校生は授業があるので急いで、教室に戻ることにした。

 ――またどこかで、会えたらいいな。



 急きょ午前授業で、今日はすぐ帰ることになる。

 四時限目で授業が終了し、帰るときに教科書をスクールバッグに詰め込んでいた。

 学校指定で革のスクールバッグで、それ以外は認めてないから何回か生徒総会とかで、リュックを指定にしてほしいって要望を出してもなかなか生徒会が通してくれない。

 持ち帰るのにはサブバッグとしてリュックを持ってこないと。

「右肩が痛い……マジで、これはきつい……明日はリュックとデッカイサブバッグを持ってくわ~」

 右肩に食い込ませながら、駅までようやくたどり着いた。

 といっても、まだ学校の最寄り駅。

 わたしは深呼吸をして駅の改札口を通った。


 ホームで電車を待っているときに、小学生くらいの姉妹がお母さんと一緒に電車を待っていた。

 二人とも同じ制服を着ていて、それは隣の路線の沿線にある私立の小学校みたいで、お母さんが迎えに来ていたみたいだ。

「お母さん、今日はどうするの?」

 わたしはその親子が小学生の頃の自分と妹の萌々ももと母さんに見えた。

 萌々は二つ年下の妹で受験生。めちゃくちゃピリピリしているから、あんまり話しかけにくいんだよね。

 そして進路についての話をしてくる両親がいる家には帰りたくなかった。

 もうすぐ萌々の都立高校の入試が終わって、合格発表があるんだよね……確か。

 家に向かう足取りは重くなり、次第に心もザワザワし始めた。

「帰りたくない……。もう嫌だな」

 わたしはそのまま家に帰ってから、冷蔵庫にあったもので昼ごはんを作って、早めに食べてから外に出かけた。

 イヤホンをスマホにつけて、LINEをゆっちゃんにした。

『こっちは準備OKだよ』

『了解~』

 それから、LINE通話が始まった。

「もしもし? あ、ゆっちゃん」

「菜々、ナイスタイミングだったよ。もうそろそろ電話しようかなと思っててさ」

 そのまま公園のベンチで話を始めた。

 ゆっちゃんと一緒に遊びに行く計画を立てて、そのまま三時間くらいずっと話していた。





「そろそろ、お開きにするか?」

「そうだね! もうバイトだ、またね~」

 そう言って通話が途切れ、スマホにつけていたイヤホンを外したときだ。

 市内に響き渡るチャイム……四月から十月まで午後五時半、十月から翌年の四月までは午後四時半に小学生の帰宅を促すチャイムが鳴るの。

 そのチャイムを聞きながら、家に帰ることにした。

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