第3話 刺繍と寄せ書き

 週末。

「難し……これ」

「そう? 覚えれば、ラクだよ?」

 雅人のうちにお邪魔して、刺繍をしていた。

 テスト期間以外はいつも暇なときは遊びに行っていて、今日はスウェーデン刺繍を教えてくれと言われて刺繍を教えていた。

 雅人はあまり刺繍がうまくいかないで、舌打ちしたり、声を荒げたりしている。

「あぁ! くっそ、菜々。よくやれるよな」

「好きだもん。こんな感じで刺繍するの」

 スウェーデン刺繍用の布と針は学校の近くにある手芸店で見つけてきて、それをここ数日ずっと愛用している。

「選択科目でお前、趣味を極めようとしてるの? ほんとに……」

 雅人は呆れながらこっちを見ていた。

 わたしは選択科目は美術と被服を選択していて、結構好きな科目だから自然と成績がよくなってる。

 雅人の高校は単位制で選択科目を主に取っているから、結構忙しいみたいだ。

「こんなのやるんだな、倉島女子は。もう結構な技術持ってんな?」

「うん……服飾の大学に行きたいもん、いまでも思ってるし……まだ」

 刺繍を終えると、それを刺繍専用の箱にしまうと、雅人が麦茶とお菓子を持ってきた。

「ありがとう。お菓子とか、もらっちゃって。いいの?」

 調理実習で作った沖縄の焼き菓子であるちんすこうだった。

「ちんすこう? これ、学校でも作ったよ?」

 雅人は興味があると、たぶん作れる。うちよりも料理とかはできるはず(笑)。

「沖縄だっけ? そのお菓子、お前のこと修学旅行はどうなった?」

 ちんすこうを食べていたけど、その話題になると少しだけ心がブルーになってく。

「あれ……、菜々? どした、え?」

 雅人は少しだけ困っている。

 いきなりちんすこうを黙々と食べているから、少しだけ不安に思ったらしい。

「……振るな」

「え? どうし――」

「その話題を今、うちに振るなぁぁぁ!」

 雅人にグーパンを食らわせようとしたけど、その拳は彼にしっかりと受け止められてしまった。

「っうわ、あっぶねぇな~。俺以外にはやるなよ? 絶対に」

 雅人はずっと空手を習っていたから、ちゃんと受け止めることができた。

「てか、修学旅行の話題を避けるって。どうした?」

 わたしは麦茶を飲んで皿に盛られたちんすこうを食べる。

「新型コロナウイルスのせいでさ、修学旅行が中止になった。ほんとに嫌だよ!」

 ほぼ愚痴のように雅人に話しかけてしまった。

「俺はもう修学旅行に行ったけど、やっぱ中止になるのは結構辛いよな。でも卒業するまでには修学旅行をしてくれるんじゃ……三年生で修学旅行はさすがに無理か」

 雅人もちんすこうを食べながら、その話を聞いてくれた。

「まあな。で、話題を変えるけど、調理実習で……ちんすこうだけを作ったのか?」

「口のなかパサパサになってくるよ。タコライスとセットだよ?」

 笑いながら、雅人は麦茶を飲む。

「じゃ、今度はそのレシピ、学校から持ってこい。作るぞ」

「了解でーす!」




 月曜日。

 部活の先輩への色紙を仕上げをすることにした。昼休みに部室に画用紙を持ってきて、図書館にある紙の型抜きを借りていた。

 パチンパチンと図書館に音が響く。

 中二階になっている上の机があるので、そこで作業中なんだよね。

「ゆっちゃん~。手伝ってよ~」

「いいぞ! 歩花もやるぞ」

悠紀子ゆきこ、こんなキャラしてたっけ……?」

 わたしは部活の二年生で寄せ書きを完成させることにした。

 今日、学校の先生から言われたことだ。

「新型コロナウイルスの影響を考慮して、三月二日から臨時休校にします。なお、卒業式の参加する予定だった在校生は参加できません。明後日で三年生と会えるのは最後です」

 そう言われて、三月二日に渡す予定だった色紙を、急きょ明後日に渡すことにした。

「え~とね。一人だけで先輩が出国しました。コロナウイルスが影響してくるから、ほぼ挨拶も言えないまま行っちゃったのよ」

 一人だけで海外の大学に行く先輩がいるらしく、急きょ出国することになってしまったようだ。

「でも、先生が卒業式にお父さんに渡すから」

 寄せ書きが完成した。

 先生に聞いたら三年生が終わるのは、二時限目でそのときに部員に集合をかけている。

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