第2話 部活と進路

 修学旅行が無くなってから、数日後にはごく普通の日常を送っていた。

 でも何か修学旅行についての話題は、少しだけタブーのようになってきたの。

 わたしはそのことはあまり話さない。

 でも、これは仕方がない。

「ゆっちゃん。今日は部活だよ?」

「ごめん、四時半には学校を出ないと……バイトが間に合わない! ごめんね~!」

 部活をそろそろやらないと年明けから、やってないことになっちゃうし。

 わたしは急いで図書館に向かう。



「それでは部活を始めます、今日は色紙のメッセージを書いてもらいます」

 教室だった壁をぶち抜き、四つの部室にしたうちの一つに文芸部の部室があった。

 ここには部活で使うものや部員の部誌を置かれたり、なんか使いきるのには数年かかりそうな量の画用紙は近所の大手手芸店の紙袋に入れたりしている。

 部室にいる部員は二、三年生が計五人。

 三年生の先輩たちは五人で、卒業したら半分の人数になってしまう。

「メッセージは今日中でもいいよ」


 部活の終了時間が来たので、今日はここで解散することにした。

「お疲れ様でした~!」

「菜々。鍵、先生に返しに行くよ!」

「ん~。行くよ~?」

 ゆっちゃんと歩花あゆかちゃんと一緒に部室の鍵を返しにいく。

 歩花ちゃんは一年生のときに同じクラスで、文芸部の部員でもある。進級してからはクラス替えで違うクラスになって、なかなか部活のことで話せなかった。

「先生~! 鍵を返しに来たよ~!」

 図書館の司書の一宮先生。文芸部の顧問の先生でもあり、よく話したりもする。

 一宮先生に鍵を返すと、みんなで学校を出ることにした。



 駅の改札口を抜けると、わたしは一人だけ路線が違うので、他のホームに向かう。

 電車に乗るとため息をついてしまった。

 ここ数日、親と言い争いをしてしまった。

 それは進路のことだった。

 両親は大学の教育学部に進学して、卒業後は教師になってしてほしいって言っている。

 わたしは絶対に教師になりたくなかった。両親の家系は代々教師をしていて、わたしも将来は一緒の職業に就いてほしいと思っているようだ。

 でも、ここ数年でもう教師になることを嫌がっているのを知ってるのに……直接言っていなかったけど、昨日とうとうこっちも堪忍袋の緒が切れてしまった。

 気がついたら自分の部屋にいて、部屋のなかはぐちゃぐちゃに散らかっていた。

 もう帰りたくない……と思って、地元の最寄り駅の改札口を抜けた。

 気持ちの整理がつかない……修学旅行が中止になったショックと親に対するイライラが混ざって、どうしようもできないような気持ちになっていた。

「帰ろ……」

 でもそう言ったつもりではいるけど、家にはあまり帰りたくなかった。

「あれ? 菜々、どうした?」

「え。雅人? 久しぶり!」

 そこには少しだけ紺のブレザーにネクタイをした幼なじみの雅人がいた。

「ばったり会うことないもんね」

「そうだな。俺は自転車を押してくよ」

 雅人が着ている制服は最寄り駅の近くにある都立高校で、偏差値は少しだけ高めだったはずだ。

 自転車で三十分でたまに遅れて駅に行く途中に、雅人に遭遇することはあった。

「どうした。家に帰りたくないのか?」

 そのことにドキッとしてしまった。

 まるで心を読んでるのかと思うくらい、雅人にはよく勘づかれてしまう。

「うん……昨日、進路に関して大ゲンカしちゃってね」

 ゆっくりと歩きながら、雅人に話しかけた。

「大学は教育学部に行け、卒業後は教師になれってうるさいんだ」

「え? そうか。お前の両親、教員をしてるよな~」

「そうだよね、親戚もほとんどが教員か塾の講師とかの仕事を就いてて」

 自転車を押しながら、その話を聞いていたけど、すぐに立ち止まっていた。

「雅人? どうしたの」

 雅人は自分の制服のポケットからスマホを取り出した。

「LINEで話してもいいぞ、もし……言いにくかったら、俺に相談してみ」

「え! でも……雅人、バイトとかしてるんじゃ」

「うちの学校、都立の癖にバイト禁止なんだよ。早くスマホ出せ」

 わたしはすぐにスマホを出してLINEのアイコンをタップした。

 すぐにLINEの交換をしてから、雅人と一緒に帰ることにした。

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