第37話 灯台着。今日の夕飯、どうする??

「と~うちゃ~くっ!」

「結構、かかったなぁ」


 灯台へ続いている階段を登り終えると、眼前に見えたのは灯台――も見えるものの、それより目立ったのは多数の車だった。こんな広い駐車場が整備されているのか。しかも――


「灯台……思ったよりもでかいな」

「だね~。何か不思議だけど。あ! 雪継、売店があるよっ!!」


 四月一日が目敏く人混みが出来ている建物を発見し指差した。

 大エース様の瞳は『私に奢るべしっ! べしっ!!』と訴えている。

 が――軽くあしらう。


「灯台登ってからな」

「え~! 私的には、もう十分達成感があるんだけど? 花火の約束もしたし? 篠原雪継君が『告白すると、俺は……俺は、四月一日幸さんの水着が見たいんだ……』なんて言うから、海水浴にも行くし??」

「偽証罪適用。登り終えた後、俺にソフトクリームを奢れ。ほら、行くぞ」

「う~。雪継のいじわる~」


 文句を言いつつも、四月一日は俺と並び歩みを再開。

 その間、どうでもいい会話をする。


「帰り、銚子で何を買う?」

「う~ん……本当は生魚を買って、お義父さんにお寿司握ってもらいたいけど……ちょっと難しいよね?」

「今日の今日はキツイしな。東京戻るの夜だろ。多分、21時とか」

「夕飯どうする~?」

「……お前。昼飯も食べてないのに、もう夕飯の心配かよ」

「当然! だって、私、雪継の料理好きだもん♪」


 邪気無しの笑みを四月一日が向けて来た。

 可愛――……不覚にも動揺。いかんいかん。

 白い犬吠埼の灯台へ視線を向け、平静を装いつつ返答する。


「――……待て。どうして、俺が作ることになってんだ?」

「え?」

「え? じゃないっ! お前は自分の家に帰れ。俺は」

「何を作るの?」

「ペペロンチーノかカルボナーラ」

「むむむ……悩ましい……。詳細を教えて欲しいかもっ!」


 四月一日が説明を要求してきた。

 あれ? 作ったことなかったかも?

 指を二本立て、説明。


「ペペロンチーノは超簡単だ。使うのはニンニク。唐辛子。あとパスタ。以上」

「具がほぼないよっ!?」

「が――……滅茶苦茶、美味い」

「……カ、カルボナーラは?」

「面倒だし、全部、電子レンジで」

「お手軽っ!?」

「が……とんでもなく、美味い」

「うぅぅ…………雪継が、雪継が、私を虐めるぅ……」


 四月一日は頭を抱え、本気で悩み始めた。

 取り合えず、ダメ押しをしておく。


「なお、明日の朝はフレンチトースト」

「……メープルシロップたっぷりの?」

「たっぷりの」

「――……篠原雪継君」


 四月一日が俺を見つめた。そこにあるのは『食欲』。

 機先を制する。


「俺はペペロンチーノ作るから、お前、カルボナーラ作れ」

「え~! 逆! 逆がいいっ! カルボナーラ、難しそうっ!」

「別にいいぞ。どっちにしろ簡単だしな」

「じ、自信満々……。くっ! こ、この、女の子泣かせめっ!! そういうのは高校時代で卒業しておくべきっ!」

「残念ながら……俺は高校時代とは比べ物にならない程、料理の腕が上がっている」

「……違う惑星で潜在能力を引き出された位?」

「その手前位」

「こ、ここから引き出されたらどうなるの!? どうなっちゃうのっ!?!! こ、これ以上、私を――」

「肥えさせる喜び」

「死ねっ!!!」


 大エース様のパンチを受け止めつつ、灯台の下へ辿り着いた。

 売店の入口にはソフトクリームやジュースが売られ、随分と賑わっている。


「わぁ、わぁ! 思ったよりもたくさんある! う~ん……どれにしようかなぁ……」

「お姉、ガキみたいだぞ」

「! そ、そんなことないよ? わ、私はもう大人なんだからっ! ちゃんと働いてるしっ!」


 聞き知った声がしたような……。

 少しだけ気になり目線を向けようとし――四月一日に手を引っ張られた。


「ほら~行くよ~」

「お、おお?」


 何故かそのまま左腕に抱き着かれる。「……既成事実の積み重ねが大事……」今、何か言ったか?

 まぁ、ここでドキマギしたいところではあるんだが……長い付き合いである。最早、これくらいでは心拍数は変化し得ない。何せ、胸もそこまでは――


「……篠原雪継君? 今、何を考えたのかしらぁ?」

「……余りに軍曹殿が魅力的ですので、心臓がおかしくなっているだけであります、サー」

「……ふ~ん」


 猜疑の視線を向けて来る古馴染み。

 勘が鋭い奴だ。

 ――真っ白な建物が近づいて来た。

 拝観料は300円。安い。

 四月一日の分も払い、中へと進む。

 ガイド通りに進んで行くと、階段を発見。どうやら、二人並んでは通れない箇所もあるらしい。


「ほれ、離れろ。で、先へ行け」

「は~い」


 四月一日を先へ行かせつつ、登り始める。

 ホテルで貰ったパンフレットによると、登れる灯台は全国でも限られるらしい。


「あれだな。日の出、見に来れば良かった――ああ、無理だな。すまん」

「そこ! どうして、言い切る前に諦めたのっ!? 起こしてくれれば可能でしょう!!!」

「自力で起きるという選択肢は」

「私の辞書にはないっ!」

「バカだ。バカがいる。……でも、うちの会社の大エース。世の中って」


 馬鹿話をしつつ、階段を登り――


「「お~!」」


 灯台の頂上に到着。太平洋を一望し、思わず歓声を上げる。

 四月一日は携帯を取り出し、俺を手招き。


「ん?」


 近づくと、太平洋を背景にパシャリ。

 すぐさまメッセージを送った。おお?

 俺の携帯が震える。


『おおおおおお兄ぃ!?!!!! 何が、何があったのっ!!? い、いきなり、仲良さそうな――……ううん。違うよね。これは、謀り事。私は騙されないっ!』

『今晩の夕食は、雪継御手製のペペロンチーノ&カルボナーラ。そして、明日の朝食はフレンチトースト☆』

『!?!!!! こ、ここここ、この、四月一日泥棒猫ぉぉぉぉ!!!!!!』


 妹と四月一日が楽しそうに、メッセージ上でじゃれ合っている。

 その始まりは、俺と四月一日の写真。

 ――後で、待ち受けの一枚に加えておくかな。

 なお、今の待ち受けは今朝撮った『寝ぼけている四月一日幸』である。

 絶対に言わないが!

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