第30話 GW一日目。銚子着。銚子ビールと旅先の柿ピー

 千葉駅を出てからも俺達は、あーだこーだ、とお喋り。

 毎日、話しているのによくもまぁ、続きもんだと内心思うが、話せてしまうのだから仕方ない。外の風景には高い建物が少なくなっている。

 四月一日が席を立つ。


「お手洗い、行ってくるね」

「ほい。あ、今だけ携帯返せ。幸雪がきっと心配してる」

「えー」

「えー、じゃない。……いや、ほんと乗り込んで来るぞ? ガチで」

「まぁ、それは確かに……」


 渋々といった様子で四月一日は鞄から俺の携帯を取り出した。渡し「戻ったら回収するからねっ!」と言い捨て、車両から出て行く。ったく。

 携帯を確認。メッセージとスタンプ多数。


『お兄ぃ! 無事!! 無事なのっ!』

『お兄ぃ!! お願い、返事を、返事をしてっ!!』

『……そんな、そんな、お兄ぃが泥棒猫さんに……』

『こうなったら、私も現地に行くしかないよねっ!』

『――はっ! で、でも、私、泊まり先を知らない。銚子としか……でも、あの悪知恵100+、某蜀の法正さんも真っ青な泥棒猫さんが、素直にそこへ泊まるとは思えない。絶対、別の場所な筈』

『…………銚子電鉄には乗る。絶対乗る。私だったらその写真を撮って、送る。あの人ならそうする。つまり宿は銚子電鉄沿い。駅から推測する』

『夏なら、あの人は海水浴を企む筈。『水着で悩殺☆』とか頭の悪い台詞を言うんだ、きっと。胸無しのくせにっ。でも、今は五月。泳げない。つまり、海岸は歩きたいけどそれだけ。よって、主目的は――温泉』


 ……うちの妹は何をしているのだろうか。

 なお、俺の影響を受けて、あの子は歴史を齧っている。

 某無双系ではなく、SLGの方をやり、最高難易度で中華だと孔明没後の蜀。日本だと蝦夷地から、という何が妹をそうさせたのか? と悩ませるプレイを楽しんでいる。いや、確かに五丈原後は面白いが。

 既読がついたのに気付いたのだろう。すぐさま、メッセージ。写真だ。

 地図上の駅に赤丸がついている。『犬吠』。…………おおぅ。


『正解』

『今、会いに、行きますっ!!!』

『古いな。来なくてよろしい』

『でも、お兄ぃが監禁されちゃうっ!』

『されんされん』

『きっと、一緒に温泉とか入る気だよっ!!』

『混浴はない』

『部屋でごろごろ、ごろごろ、する気だよっ!!!』

『それはする』

『……ぎるてぃ……』


 吠える猫のスタンプが送られてくる。

 仕方ないので、なだめる。


『明後日、そっちへ行くから。親父達も帰って来てるんだろ?』

『!?!! あ、うん♪ 泊まる? 泊まる?? 泊まる???』

『分らん。夕飯まではいる』

『とまろうよー』

『――母、四月一日と繋がりある模様。内偵すべし』

『! ヤー!!』


 軍服を着て敬礼する猫。

 俺は最後に今日泊まる宿の名前を送ろうとし――携帯を盗られる。


「……おい」

「たっだいまー。雪継、内偵って何よ? 内偵って。私とお母さんは仲良しな方が良いでしょう?」

「……いや、どうして繋がりがあるのか不明なんだが」

「ちょっとねー。気になる? 気になっちゃう。よっと」


 四月一日が隣に着席。

 携帯を弄る。覗き込む。


『時間切れ。雪継と私は今日、明日と楽しむの。高校生は勉強が本分よ? ブラコン猫さん★ さっさと寮へ帰ればぁ?』

『! こ、この漂う意地悪極まる妖気は……四月一日泥棒猫さんですねっ! 兄さんをどうするつもりですかっ!!』

『え? そんなこと……恥ずかしくて、言えないわ。わー』

『悪・霊・退・散っ!!!』

『残念。私、生きてるの♪ だから』


 四月一日が俺と肩をくっ付け写真を撮る。

 それを送付。


『こーいうことも出来るのです。です♪』

『…………ぎるてぃ中のぎるてぃ…………』


 くすくす、と楽しそうに笑い四月一日は携帯を鞄へ仕舞った。

 まぁこいつはこいつなりに、幸雪を可愛がってはいるのだろう。多分、きっと、おそらくは。

 車内放送。『間もなく銚子』着くようだ。


「忘れ物しないようになー」

「うん、大丈夫。とりあえず、雪継だけ忘れないようにするねっ!」

「人を物扱いするなっ!」


※※※


 銚子駅のホームは、所謂『片田舎のホーム』という感じだった。

 うちの田舎である、新潟の無人駅よりは遥かに綺麗だ。

 ゴミを捨て、時刻表を確認。まだ時間がある。

 取り合えず売店もでないか、と改札近くまで行くと駅弁を売っていた。普段は売ってない? ようだ。けれど、俺達の目はそれよりも――初日の出と灯台がラベリングされた銚子ビールと柿ピーに。迷わず購入。

 一本を四月一日へ渡し、行儀は悪いがそこまで人も多くはないしな……すぐ飲めば良いだろ。リュックサックから携帯栓抜きを取り出し開け、ホームへ向かいながら喇叭飲み。四月一日のも開けてやる。

 地ビール、というやつらしく辛口。悪くない。

 昼間っからビール。しかも、喇叭飲みで歩きながら。悪徳ってやつかもしれんが、何だか楽しくなる。柿ピーの袋開け、四月一日と摘みながら、そのまま二番線の銚子電鉄へと向かう。ピーナッツが好きなのだ。


「外に出るわけじゃないんだなー」

「みたいだねー。ICカードは使えないんだって。電車の中で切符、買うんだよ? 私、新幹線と特急以外で実は殆ど買った経験ないかも」

「お前は田舎ってもんがないからなぁ。未だに自動改札すらない場所とかもあるぞ? 前、伊勢へ行った時の駅にもなかった。駅名は思い出せんが」

「ふ~ん……ねぇ、篠原雪継君」

「んー?」


 四月一日の声が少し低くなった。

 古い駅舎を通り抜けると、ホームには古い緑色の車両が停車している。鉄ちゃんではないので、詳しくは分からないが、随分と年季が入っている。

 袖を引っ張られる。


「……誰とお伊勢さんへ行ったの??」

「大学時代の友人」

「…………女の子ですか?」

「野郎だよ。残念ながら、俺はモテないからな」

「ふ~ん。なら許すっ! ね、写真を撮ろっ! そして、ブラコン妹猫さんに送ろうっ!」

「どんどん名称変わるのな」

 

 途端に機嫌が良くなった四月一日が左腕に抱き着いてくる。

 先頭車両を撮っていた男女の客が列車に乗り込んでいく。「わぁ! 可愛い♪」「お姉ぇ、恥ずかしいから大声出すなよ」。姉弟か。後ろ姿だけでも分かる。美男美女だわな。


「雪継、さ、見せつけるよー!」

「何をだよ。ほら、撮るなら撮れ」 

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