第29話 GW一日目。引き続き特急内。銚子は魚か、お醤油か。はたまた、ソフトクリームか 下

 船橋で多少が人が乗って来た。けれども、満員とは程遠い。

 ゆったりとした速度で特急は進む。いや、十分早いのだろうけど、普段は新幹線やら飛行機だし。今や、飛行機ですら電車感覚で乗れてしまう時代だしなぁ。

 ビールを傾け、ポッキーを摘まむ。


「で? 今日、泊まるとこのチェックインは何時だっけ?」

「11時からー。お昼付き! 場所は、えっとね」


 四月一日が俺に肩をくっ付け、観光ガイドを覗き込む。

 流石にもうこれくらいでドキリ、とはしない。こいつ、パーソナルスペースがやたらと狭いのだ。ゲーム中も結構くっついてくるし。


「銚子で乗り換え! 銚子電鉄だよっ! 銚子電鉄っ!!」

「あ~濡れ煎?」

「うん~。何か、他にも色々売ってるみたいだけど、正直、そこまで興味はないかなー。私はそれよりも単に一度、乗ってみたかったんだ。雪継もそうでしょ?」

「箱根や熱海は行ったことあるしな。あ、だけど熱海は最近、雰囲気変わったらしいし、行ってみたくはある」

「じゃ、次回は熱海が第一候補だね~」

「……次回があるとでも?」

「あるね~。私と雪継が大喧嘩でもしない限りは。そして」


 四月一日が口を開けた。

 ポッキーを食べさせる。栗鼠みたいだ。猫だけど。


「ん♪ しょっぱい→甘い→しょっぱい→以下、るーぷ! ほら? 私達って、喧嘩継続出来ないと思わない? 何故なら、私、四月一日幸の心は」

「で? 乗り換えて?」

「い~じ~わ~る~」


 大エース様が、むくれてビールを飲む。

 ……少々、色っぽく見えて困る。調子にのるので口には出さんが。

 ビールの飲み終え、缶とゴミをまとめてビニール袋へ。ほぼ、食べ終えた。後は、四月一日が昨日買ってきた、フィナンシェくらいだ。


「えっとね……降りる駅は犬吠だって」

「灯台あるところか」

「うん。駅まで迎えに来てくれるみたい! で、ホテル着いたら――あ、いやらしいとこじゃないからねっ! ねっ!」

「…………お前、寝不足でもう酔ってるだろう?」


 俺はげんなりしながら、四月一日へジト目。

 どうしてそういう発想になるんだか……魔法瓶から珈琲を出し、飲む。


「あ、もしかして~ちょっとそんなこと考えてた? た?? やだぁ~もう~。雪継の」

「それ以上、言ったら」

「言ったら?」

「明日のドライブは無しだ」

「!? 卑怯っ! 雪継、卑怯っ!! こ、こんな可愛い女の子と一緒にドライブしたくないって言うわけっ!!!」

「もしくはお前を置き去りにする」

「は~く~じょ~ものぉぉぉぉ~! …………こーひー」

「ほいよ」


 四月一日にも珈琲を渡し、同時に空になったビール缶を受け取りビニール袋へ。そろそろ千葉だ。

 話を戻す。


「昼は宿な。夜もだろ?」

「うん~。豪華なのにした! 温泉入って、ごろごろ、ごろごろしよー。偉いでしょう? 褒めて!」

「あー……わたぬきさんは、えらいなー」

「むー! しのはらくんは、ひどいなー」

「でも、銚子でお昼、食べなくて良かったのか? ほら、こことか」


 観光ガイドに載っている、漁港近くにある海鮮のお店を指さす。

 食欲をそそる海鮮丼の写真。こういうの、四月一日も俺も好きなのだ。

 再び、四月一日が肩をくっつけてきた。


「うん、ここは明日行くつもり。雪継、好きだもんね。大好きだもんね」

「ま、確かに好きではある」

「……ふふふ~♪」


 やたら上機嫌になった大エース様が足をバタバタ。殆ど、人が乗ってないとはいえ、社会人としてどうなのか。

 四月一日が観光ガイドを捲る。


「あとは、やっぱりお醤油かな~」

「有名ではあるな」

「でも、別に現地で買わなくもいいかも?」

「工場限定品ってのもあるみたいだけどなぁ」

「今のこの世の中、密林に分け入れば、殆どの物は手に入るしね」


 ぺちゃくちゃと普段と変わらず話していると千葉駅に着いた。

 流石に人が乗り込んで来る。

 と、いっても、まだまだ空いているが。路線を維持していけるのかと、若干不安になる。俺達よりも数列後方にも座った気配。


「お姉、窓側だろ? 座れよ」

「え? いいの?? ありがとう♪」  

「……別に」


 聞き覚えがあるような、ないような。

 四月一日が袖を引っ張って来た。ジト目。


「……雪継」

「ん? どうした??」

「…………なんでもない。やっぱり、お醤油はやめとこっか。明日はその代わり」


 観光ガイドが捲られる。何故か、密着度が増した。

 犬吠埼の頁で止まった。


「灯台があるんだから、灯台には登ろう!」

「使命感」

「でしょ? そして、私はソフトクリームを食べる!」

「これまた使命感」

「あと、明日の朝ちょっと早起きしよう」

「? 朝風呂か??」


 言われずとも温泉には入り倒すつもりでいる。

 まぁ、偶には良いだろう。

 すると、四月一日は悪戯っ子な顔になった。


「ふっふっふっ~……篠原雪継君に、綺麗で可愛くて、ちょっとお茶目な四月一日幸さんから、お得な提案があります!」

「あ、間に合ってますんで。お墓とかいらないし、家のリフォームも、光回線も間に合ってるんで。今、もう光回線じゃないか」

「お墓はまだ先だし、家を買うのはお父さんと要相談。建築のプロだったんでしょ? 取り合えず、マンションは一つが良いかも? 回線は最速で!」 

「……何処から突っ込んで良いのか分からんが、どさくさに紛れてマンションを引き払って、俺の家を占拠しようとしてるんじゃないっ」

「いや、これは現実的な選択肢だよ? 篠原雪継君。ほら、考えて? 二人でシェアすれば、家賃は半分。光熱費も安くなって食費等々折半! 何より、朝起きたら、可愛い私の寝顔が!!」

「………………で? 明日の朝は??」


 付き合いきれなくなり、冷たく先を促す。

 ――まぁ、考えなくもない。

 何せ、今や四月一日が自分の家へ帰るのは、ほぼ寝に帰るだけであるからして。うちに持ち込まれる服も増えてきてるし……。

 自らのお財布管理が大の苦手である、こやつの財布管理を半ば強制的に放り投げられている身としては、少々思うところもあるのだ。言わんが。

 四月一日がニヤニヤ。


「明日の朝は海岸を歩こうよ。二人で! そして、その写真をブラコンが過ぎる妹さんに送ろう★ 私は格の違いを見せつけるっ! 勝った!! 第三部、完っ!!!」

「…………それ、敗北フラグだぞ?」

「う、うるさいっ! そんなこと言ってると、帰ってすぐに引越しするからねっ! ねっ!!」

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