第28話 GW一日目。特急内の持ち込み珈琲とサンドウィッチ。その後、ビール&スナック菓子 下

 四月一日に珈琲を淹れてやりつつ、サンドウィッチを頬張る。

 ふむむ……カレー味のチキンって、家じゃ早々作ろうとも思わないが、美味いもんだな。カレー粉買ってきて、今度作るか。

 野菜も、トマト、レタスだけじゃなく、知らない物が入っている。何だ、これ?

 すると隣から四月一日が、じー。


「……何だよ?」

「美味しそう」

「確かに美味い」

「美味しそう」

「……お前、普段はサンドウィッチ買う時、卵一択だろうが?」

「お・い・し・そ・う!」

「…………ほれ」


 もう一切れを渡すと、満足気。

 何というジャイアン。お前の物は私の物。私の物は私の――「はい。こっちのも美味しいよ?」卵サンドを渡される。むぅ。携帯が震えた。


『お兄ぃ! 騙されないでっ!! 泥棒猫は化け猫なんだよっ!!! 演技が上手いんだからねっ!!!! ねっ!!!!!』


 ……俺の妹は千里眼でも得たのか? いや、妖怪レーダーか。

 呆れていると、四月一日が指を舐めつつ、お澄まし顔で聞いてきた。


「ブラコンが過ぎる妹さん?」

「よく分ったな」

「妖気を感じたから」

「……お前もか」

「篠原雪継君」


 大エース様が珈琲を飲みながら、真面目な顔になった。

 お、おお?


「――私達は、今日、旅行中ですね? 二人きりで」

「そ、そうだが?」

「だったら」

「あ、おい」


 携帯が取り上げられ、四月一日の鞄の中に。

 ニッコリ。


「携帯はいらないでしょ? でしょ?? 私と話してればいいんだしっ! しっ!!」

「お前と、ずっと?」

「ずっと!」

「……毎日、顔を合わせて、大体、話してるのに?」

「……待って。『大体』って何? 何なの?? あー! 雪継! 私に隠し事!? 隠し事してるのっ!?!!」

「うぜぇ」


 俺は珈琲を魔法瓶から出し飲む。豊潤な香り。そう言えば、缶コーヒーというものを買わなくなったな。

 リュックサックから、観光ガイドを取り出し、脇に置く。


「まー携帯の件は分かった。宿、着いたら幸雪にメッセージだけ送るわ。じゃないと、来かねない」

「……シスコンー」

「歳、離れてれば甘くもなるさ」

「かわいくなぃぃ。私、妹とそんなに仲良くないし。……ふんだっ。いいもん。私、ビール飲むから」


 四月一日が鞄からビールを取り出す。金色が神々しい。

 俺は卵サンドを食べつつ外の風景を眺める。

 まだまだ、ビルも多い。千葉駅辺りまでは同じようなのかもしれない。

 にしても……この卵サンド、どうなってるんだ? 

 家で作るそれとは別次元なんだが? 卵の違いなのか? いや、マヨネーズも良いの使ってる感じだ。それとも、玉ねぎか??

 これは、研究のし甲斐が――


「冷たっ!」

「あ、良かった。冷えてるみたいだね~」


 四月一日が俺の頬っぺたにビール押し付けた。

 良く冷えている。


「……おい、こら、貴様。今、それをやる必要性が何処にあった? 自分でも触ってるだろうが?」

「え~わたし、わかんな~い♪ はい、雪継の分!」

「こ、こいつ……!」


 俺はイラっとしながらもビールを受け取り――


「「乾杯」」


 缶同士を合わせ、開ける。

 泡が噴き出すのを慌てて口で受ける。朝から、特急に乗りつつビールか。俺も大人に


「ふふふ♪ 私達も大人になったね~。ちょっと嬉しくない? まー雪継は高校時代から全然、変わってないけど。けど!」

「……確かに、そうかもしれん」


 自分が高校時代と変わったことなんか、独り暮らしを始めて、会社に勤めてくらいだ。ああ、まぁ……四月一日を見やる。

 ――こいつと、またこうして話をするようになるとは思わなかったか。


「? 雪継?? あ、もしかして、遂に私の魅力に気づいた? ふっふっふっ~。そうなんだよぉ~? 私、四月一日幸は、こう見えて美人なのだ! だ!」

「美人なのは昔からだしな」

「!? き、奇襲とは、卑怯、卑怯っ!」

「事実だろ。あの当時、お前、モテてたし」

「…………大人数にモテても仕方ないんだよ」

「? 今、何か言ったか??」


 四月一日が小さく零した。

 聞き返すも、頬を膨らまし、サンドウィッチのゴミをビニール袋へ。

 片手で要求。スナック菓子の袋を渡す。


「な・に・も・い・っ・て・な・い!」

「……そうか」


 触らぬ四月一日に祟りなし。いや、これで触らなくても怒るんだが。

 ビールを飲みつつ、二人して固いポテトチップ塩味をむしゃむしゃ。


「これをさ」

「ん~?」

「親父が再現しようとしてるんだよ」

「おお~。お父様、凄い! この前、届いた肉まんも、もう売り物レベルだったよね?」

「最初は酷かった。が、あの人、凝り性だからな。ほら、あの中華屋の」


 一個五百円以上する辛い肉まんの話をする。色々と食べたけれども、結局、篠原家では、あれが至上、との結論が出されている。高いけど。

 でもまぁ、鰻を買う気になれば、デパ地下の大概の物は安くなる原理原則があるし、そこまで普段金を使う趣味があるわけでもなし。美味しい物を食べたいのだ。

 四月一日が感心する。


「……ほんと凄いよねぇ。でも、雪継のお母さんもお料理上手じゃない? 高校時代のお弁当美味しそうだった、唐揚げがまた食べたい」

「懐かしいな。図書準備室でお前に強奪された唐揚げの恨み……俺は忘れていないぞ」

「たべたい~。お母さんの~」

「聞けっ! それとも忘れたとでも」

「――覚えてるよ。覚えてる」

「っ」


 四月一日幸が優しく微笑む。

 何だか気恥ずかしくなり、外を眺め、ビールを一口。

 そろそろ船橋だ。


「雪継、GW後半はどうする? 実家には帰るの??」

「……幸雪が五月蠅いからな。日帰りで帰る」

「なら! 私も行っていい? 唐揚げが食べたいのですっ! この前、お茶した時『遊びに来てね』って言われたし。で、その翌日は私の家実家ね☆ ママが会いたい、って言ってた!」

「ちょっと待て!? どうして、うちの母親とお前に繋がり――……は? お前のお母さんが??」


 四月一日幸の母親とは、何度か会って面識がある。朗らかで良い人だ。けど、俺に会いたいとはいったい?

 ついでに言うと、こいつと俺の実家は案外と近い。電車で確か五駅。自転車でも行ける距離である。

 大エース様がニヤニヤ。


「『息子をよろしく』『娘をよろしく』イベント発生かも? かもかも??」

「……変なことを口走るなよ?」

「そっちはブラコン妹さんが話してるんじゃない?」

「うちの幸雪は賢い子なんだよ。誰かさんと違ってな」

「シスコン雪継っ!!」


 罵倒しながら口を開けたので、ポテトチップスを放り込む。

 まぁ、俺達にとってはこういうのが毎度のことである。  

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