第8話 日曜日昼 チキンゴロっとチキンライス
俺は自分で言うのも何だけれども、案外とまめである。
休日の午前中には洗濯機も回すし、部屋の掃除もする。
なので……朝食を食べ終えた後、炬燵に入りながらFPSゲームをしている女の同僚がいると邪魔なのだ。あと、いつの間にかまたランク上がってるじゃねぇか!
掃除機でゲームに興じる生き物の腿を押す。
「おい、貴様。家に帰れ」
「今はっ、今はっ! 無理っ! だからぁっとぉぉぉ!!!」
「ていてい」
「あーあーあー!」
ゲーム序盤、武器も拾えず、あっさりと倒れる四月一日のキャラ。
直後、チームも全滅。無慈悲にランクもダウン。
憤怒の表情で、四月一日が俺を見た。
「ゆ~き~つ~ぐ~ぅぅぅ…………」
「ダイヤⅡ、おめでとう!」
「きー! 可愛くないぃぃ…………」
バタバタ、と暴れる二十四歳の女。……子供か。
呆れながら掃除機をかけつつ、再度勧告。
「お前も自分の部屋の掃除とか、洗濯とか、することがあるだろうが?」
「仕方ないなぁ……よっと」
四月一日が炬燵から出てきた。
そのまま、玄関へ。おお、珍しく言うことを聞いた。
俺は、うんうん、と頷きながら掃除を再開。
幾ら何でも、朝から晩まで入り浸るのはなぁ……。
玄関がノックされた。
「雪継~。あ~け~て~」
「?」
四月一日の声。
訝し気に思いながら玄関へ。
開けると――洗濯物の籠を持ったかつての同級生。
「ありがとー。洗濯機、空いたよね? 借りる~」
「……おい、こら、少し……少し待て」
「うん~回してからね~」
四月一日はそのまま、籠の中身をドラム式の洗濯機へ。昨年、一緒に買いに行った最新型だ。
……下着が見えたので、ちょっと目を逸らす。
「それで~? 何?」
「……いや、お前なぁ。幾らなんでも、男の家の洗濯機を使うか?」
「私は気にしないよー。あと」
「気にしろっ! ……あと?」
「家の洗濯機、壊れた!」
「良し。コインランドリーへ行け!」
「えー外出るの面倒なんだもんー。……女の子は大変なんだよ?」
「……化粧したくないだけだろうが?」
「そーともいうー」
四月一日は、にへら、と笑う。
……悔しいことに少し幼く見えて可愛い。言わんが。
悔しいので、腕組みをし通告する。
「……炬燵は片すぞ。もう、春だからな!!」
「確かに最近は暖かいね。……だが、断る!」
「――……人をダメにするソファー」
「!?!!」
俺が、ポツリ、と呟いた単語に四月一日の瞳が大きくなった。
悔しそうな顔をして、身体を震わす。
「ひ、卑怯っ! わ、私が『買いたいっ! 設置したいっ!』って言ったら、ダメだって言ったのにっ!!」
「ダメとは言った。確かに言った。……が、ずっとダメとは言っていないしなぁ」
「雪継、可愛くないっ!」
「ほれ、片付けるぞー。午後、見に行くか?」
「――うん♪」
さっきまで、化粧は面倒、と言っていたのが嘘のような笑顔。
……やっぱり可愛い。あと、睫毛が長い。
炬燵を片付け、掃除機をかける。部屋が広いわなぁ。
四月一日が白猫が描かれたエプロンを差し出してきた。
「篠原雪継君、わたしは、おひるに、チキンライスがたべたいです!」
「チキンライスかー。まぁ、いいけど……お前も手伝うんだぞ?」
「わたしはーせんたくものをーほすからーらー」
うぜぇ。可愛いと思ったのは撤回。
溜め息を吐きながら、エプロンを身に着ける。
そのままキッチンへ。四月一日も何故か着いて来る。
冷蔵庫の中身を確認。同じく、四月一日も俺の肩越しに覗き込む。
人参、ピーマン、玉ねぎ……そして、鶏肉もある、と。
米は冷たいけれど……まぁ、仕方ないか。本当は温かいのがいいんだが。
「無塩バターもあるねー。雪継のチキンライス、好き。大好き」
「……夕飯はお前が作れよ?」
「え? 夕飯は500円の高級コロッケでしょ? 中々、一人だと買う勇気がないやつ! ソファーを買いがてら♪」
「…………とっとと干してこい」
「は~い」
四月一日へ冷たく言い放ち、材料を並べていく。
まずは鶏肉を料理本に書かれているよりも、やや大きく切る。
ボウルに鶏肉と白ワイン。塩、胡椒。これで放置。
その間に野菜も切り、冷やご飯を電子レンジで温め。
フライパンへ無塩バターとサラダオイルを投入。
「チキンライス~♪ ゆきつぐの~チキンライス~♪」
四月一日が洗濯物を干しながら下手くそな歌を歌っている。相変わらず、歌だけはあんまりだわな。
バターが溶けたら、野菜を投入。
火が通ったら、先程下味をつけておいた鶏肉も投入。
鶏肉の色が変わったら、トマトケチャップ、ウスターソースを目分量で。だいたい、9:1くらいかな?
具に調味料が合わさったら、ご飯を投入。四月一日が戻って来て、お皿とスプーンを準備。何故か、黒猫のエプロンをつけている。お前、何もしてないだろうが?
全体が馴染んできたら、最後に無塩バター一欠片を入れる。
――良い匂い。この最後のバターが上手いのだ。コクが出る。
「スプーン」
「はーい♪」
即座に差し出されたスプーンを受け取り、すくい、四月一日に食べさせる。
感想を聞く。
「どうだ?」
「ばっちりっ!」
「あいよ」
白い皿を受け取り、よそっていく。パセリはいいや。ないし。
四月一日が冷蔵庫を漁り――トマトを取り出した。
勝ち誇りながら、隣で切って皿の脇へ。
「生野菜は身体にいい!!」
「トマトにトマトだけどな」
「そこは感動するところでしょう? 可愛い女の子と一緒に料理を出来た、って!」
「……野菜を切るだけを料理とは言わん。ほら、食おうぜ」
「うん♪」
――チキンライスは我ながら美味かった。やはり、バターこそは至高。鶏肉は大きめが良い。
四月一日の奴も「美味しい♪」と言ってくれたので、まぁ良しとしよう。
勿論、洗い物はさせたが。
「……今度は食洗器かな」
と呟いていたのは、聞かなかったことにしておく。
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