【4】探偵ゴッコ。

気がつくと私たちを乗せた霊柩車は

知らない場所にいた。


「田中さん?ここがどこだかわかりますか?火葬場でないことはわかるのですが…。」


『どうやら成功したみたいだねぇ。確か彼は沖縄に赴任したと言っていたから、多分沖縄だとは思うけど、とりあえず探してみることにしよう。』


車から降りると、老いた肉体ではなく幽体の状態だからなのか颯爽と歩きだした田中さんの後を追いかける。しばらく歩いていると、食堂らしき店を見つけた。中を覗いてみると、軍服をきた若い男性が食事をしているのが見えた。


「あ、軍服着た若い人がいますね!出てくるのを待って話を聞いてみましょうか。」


『そうだね、ここに着いたということは

近くにいるはずだしね~。』


店の入口が見える物陰に身を隠し

若者が出てくるのを待っていると

一人の男性が通りかかった。


『あ!!今のだ!今のが私の探していた婚約者だよ!やっぱりここにいたんだね…よし、後をつけて家を確かめようじゃないか。』


「え?そうなの?よし、つけましょう!」


気分は被疑者を追う探偵の私。

きっと田中さんも同じ様な気持ちだろう。

久しぶりに彼の姿を見た田中さんの足取りは

先ほどよりも更に軽やかになっている。

しかし、私には一つ疑問があった。

田中さんは亡くなった時のお婆さんの姿である。果たして婚約者にどうやって会うつもりなのだろうか?


「田中さん?私思ったのですが、今お婆さんの姿ですよね?いきなり現れても婚約者の方は、誰だかわからないと思うのですが…。」


『……!わたしゃどうしたらいいんだ!

体が軽いものだから姿まで若返っていると思っていたよ…。こんな婆さんがいきなり婚約者だと言って現れても、ボケた老人が突然やってきて戯言を言っているって通報されかねないじゃないか!…よし、とりあえず家だけつき止めよう、考えるのはそれからじゃ!』


どこまでも前向きな田中さん。

生きている時にお友達になりたかったな。


数分歩いたところで、彼が木造アパートの

一階の部屋に入って行くのが見えた。

きっとそこが彼の家なのだろう。


「田中さん、あそこみたいですね。部屋に入って行きましたよ。さて、どうしますか?」


『ん~、どうしたものかね…。

ここにきて何も思いつかんわ!』


「一つ提案なのですが、手紙を書いてみませんか?私がその手紙を持って話をしてきます。田中さんね、姿はお婆さんだけど声は結構可愛い声しているし、電話とかだったら話せるんじゃありませんか?風邪ひいたから声が変なの!とか誤魔化して。直接言えないのは辛いですけど…それしかないのでは?」


『…そうだね~、そうしようかね。今から手紙を書くから、運転手さん頼まれてくれるかい?』


私のポケットに入っていた手の平サイズの

ノートとペンを渡し、手紙を書いてもらうと

婚約者の元へと持っていくことにした。


「あ、田中さん婚約者の方のお名前は何とおっしゃるんですか?後、田中さんの旧姓と名前も教えてください。ちなみに、申し遅れましたが、私は運転手さんではなく"岩崎翼"と申しますので。」


『ははっ、翼ちゃん。可愛い名前じゃないか。彼の名前はねぇ、松本良治。私の旧姓は鈴木で名前はハルだよ。それじゃあ私はここでみてるから頼んだよ!』


はぁ、行くとは言ったものの緊張するな…。

部屋の前に着くと、大きく深呼吸をして

ドアをノックした。


『はーい、どちらさまでしょうか。』


二十代前半と思われる男性が

目の前に現れる。


「突然すみません、

松本良治さんでしょうか?」


『はい。』


「私は、あ、あの、鈴木ハルさんの友人の岩崎と申します。実はハルさんから手紙を預かっておりましてお渡ししてもいいですか?」


『え?ハルちゃんから?本当に?』


手紙を受け取ると、凄く嬉しそうな表情を

一瞬浮かべたと思ったが、すぐに彼の表情は暗いものへと変わった。


「あの、実はハルさんも近くにきているんです。でも、少し風邪をひいてまして…良治さんに移したら悪いからと手紙を私が持ってきたんです。…今夜、電話だけでもできないでしょうか?こちらからおかけしますので。」


『そうなんですか…。わかりました。私も

ハルちゃんに言わなくてはならないことがありました。二十時ちょうどにこちらの番号までかけてもらえますか?部屋には電話がないので、隊の電話で受けます。』


「わかりました、お伝えいたします。

お忙しいところありがとうございました。」


部屋の扉が閉まったのを確認して

田中さんの元へと戻り話を伝える。


『翼ちゃん、ありがとう、ご苦労かけましたな。さて、何の話をしたらいいものか…良治さんが話があるというのも気になるが…。

とにかく時間まで考えることにしようかの。』


そして、約束の時間。

母子のふりをして、明かりのついていた

食堂にかけこむと具合が悪いので電話をかしてほしいと頼み込み、良治さんへと電話することに成功した。

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