真の元凶であり救世主でもあり
ボルツ国の城に戻ると物々しい、というどころか戦争真っ只中という状況だった。どこもかしこも人がせわしなく、緊張感を持って動いている。数週間前とは大違いだ。
「ボルツ王に会いたいのだが」
「これは勇者殿! 戻られたのですね! 王がお待ちです。さあこちらへ」
案内されるがまま王のもとへ向かう。その道中、
「全滅……」
「やはり勇者がいなくては……」
「やはり勇み足だったのでは……」
など気になるワードが聞こえたが全て振り払い王のもとへと急ぐ。
「おお勇者よ! よくぞ戻った!」
扉を開け王の方を見ると疲弊した顔の王が若干ホッとしたように出迎えた。だがその周りは違う。その中の一人がこちらを糾弾する。
「こんな一大事に一体何処へ行っていたんだ! ローズ! お前がついていながらどういう事だコレは!?」
「あら? そもそも数週間前まではこんな緊張感溢れる空間じゃ無かったでしょう。勇者様の居ない間に悪いことを考えたのは誰なのかしら」
「ぐ……それは関係ないだろ! 今は私が聞いているのだ!」
「話にならないわ」
ふう、とため息をついてローズは相手にするのをやめた。そのやり取りの間ボルツ王は動揺しながらこちらを見ていた。彼の背中を押したものがいる可能性はあるが十中八九ボルツ王の勇み足だろう。
「勇者がいない間に戦争を起こし後は勇者に任せよう、という腹だったのか。俺の今の実力は未知数でも魔王を倒した勇者が戦場に居るだけで相手の士気は駄々下がりだろうしな」
「な、にを…」
馬鹿な事を、と言いたいのだろうが言葉にならないようだ。大体あっているのだろう。それに黙っていないのはリアンだ。
「そんな! あんまりじゃありませんか! フユ様に全てを丸投げなんて……人間は助けあって生きるんじゃないんですか」
「リアン、残念だけど馬鹿で憐れな人間の方が多いのよ」
ローズのセリフにピクリと反応したが、それよりもたった今気付いたのだろうリアンに目を向ける取り巻きA。
「なんだそのガキは! ここはボルツ王の城、関係のないガキは引っ込んでろ!」
変装によってエルフだとバレてはいないが、明らかにただの八つ当たり行為にリアンは恐怖したようだ。体を小さくして俺の後ろに隠れた。少し脅してやるか、と一歩前に進んだところで俺たちが入ってきた扉がまた開いた。
「ただいま戻りまし……フユ!? 帰ってたのね!」
「おう」
久しぶりのイーナだ。コイツも相当疲れているな……。
「ごめんね、あなたのいない間に色々と話が進んじゃったわ……」
「大体は聞いた。おまえのせいじゃないだろ」
「だけど……」
「おい、イーナ将軍! 報告が先だろう!」
俺たちのやり取りに我慢できなくなった先ほどの取り巻きAが声を荒げる。余程余裕というものが無いようだ。人間焦るのが一番駄目だな、俺も気を付けるとするか……。
イーナの報告を聞いているとかなり状況が悪いようだ。この国も弱くはないはずなのだが相手国に相当な猛者がいるらしい。単純なタイマン戦ならイーナの方が上だろうが戦術・戦略両方に優れているのだろう、イーナを他の兵で抑え込みその隙にそいつが少数精鋭を率いて暴れるというやり方を取っているようだ。そしてこちらの軍が休憩中の時にはすかさず爆音を鳴らす、威嚇攻撃をするなどして絶対にこちらを休ませない環境を作り出しているという。
「……どっかで教わった話だな」
「え?」
「なんでもない」
イーナが不思議そうな顔をしてこちらを振り向く。だが取り巻きに急かされ再び報告を始めた。その間俺はこの世界に来た頃のことを思い出していた。その時の教育を、今となっては懐かしいあの醜悪な男の顔を。
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