戦争の気配

 変なエルフのダンジョンをクリアした後、女王の家に帰った俺達は各々の部屋で冒険の疲れを癒やしていた。リアンが父親と会った話をするとティタは一瞬驚いたようだがすぐに優しい微笑みへと表情を変えていたのが印象的だった。そして俺の呪いも半分くらいは解けるかもしれない、というと素直に喜んでくれた。こちらもあんな特典を紹介してくれたことに対して感謝を述べた。


「今日は疲れたな……でも、色々と大丈夫だということが分かって希望が見えてきたな」


 徐々に弱体化していることに関してはマジックアイテムや仲間の力で補えばいい。呪いに関しても半分解けるというのならば寿命も三十年くらいは伸びるだろう。ということでまずは目の前に控えている戦争をどうにかするかだな。そう思い悩んでいるとノックの音が鳴り響いた。


「フユさんまだ起きてますか?」

「ああ、どうぞ」


 そう言うとリアンがエヘヘ、と笑いながら入ってきた。


「今日は凄い冒険でしたね! でもフユさんにとってはよくあることなんですか?」

「そうだな……でも今回は初めて仲間とともに挑んだダンジョンだったから色々新鮮だったな」

「初めて! 私達が……」


 俺が普段仲間と冒険しないことに悲しんでいるのか今回俺の初めてが奪えて喜んでいるのか良く分からない顔をしているリアンがハッと顔を元に戻す。


「ダンジョンもそうでしたがルビアさんの国も楽しかったです! これもフユさんのおかげです!」

「俺の……?」

「はい! この里にいた頃からは考えられないくらい刺激的な毎日でしたがそれでも私が今こうやって笑顔でいられるのはフユさんが守ってくださったからなのだろ思います。改めてお礼を申し上げたいと思いまして……」


 そういうと自身の顔を赤くしながらチラッとこちらくをうかがうリアン。一体何だ?


「礼なんていらないさ。俺もリアンに何度助けられたかわからないし」


 本心からそう言うとリアンは一瞬嬉しそうな顔をし、ふと我に返ったのか首を振り、


「いえ、お礼は必要です! そして言葉だけでは足りません! ですので……ですので……」


 服を強く掴み何かを言おうとしているリアン。これはもしかしてローズの仕業か?


「ですから……私を差し上げます!」


 やはりローズの仕込みか。だがリアンは必死のようだ。こちらも真面目に考えないと駄目だろう。


「後悔するかもしれないぞ?」

「……させないように頑張ってください。私も後悔させないように頑張ります!」


 そうだな、その通りだ。人間エルフ間の問題とか色々あるだろうが知ったことじゃない。後悔させないのが俺の甲斐性だろう。そう思いリアンを抱き寄せた。




 一夜経ち、そろそろ帰る旨をティタに伝える。


「世話になった。お陰で現状から前に進めそうだ」

「それなら良かったわ。こちらとしてもリアンに色々な経験を積ませることが出来たことに関してお礼を言うわ」


 そう言葉を交わす。含み笑いをしている所を見ると昨夜の事もどうやらバレているようだな……。まあやましい事はないし別にいいか。


「フルルもまたな」

「……リアン様を泣かせるようなことがあれば殺しに行きます」


 どっかの父親と同じことを言っているなコイツ。


「もうフルル、フユさんなら大丈夫だって言っているでしょ?」

「念の為です」


 リアンは俺たちについてくるらしい。色々見聞を広める機会ということで女王が許可を出したようだ。前回と異なり今回は戦争に巻き込まれるのだが、だからこそ精一杯俺のサポートをするとの事。もしもリアンに何かあったら重大な問題どころの騒ぎじゃないだろう。俺も死ぬ気で守らないとな。


「それではお母様、フルル、いってきます!」

「いってらっしゃい、面白い土産話を期待しているわ」

「お体にはお気をつけて」


 思っていたよりもあっけない別れだったが、あまり大げさにするとリアンが踏ん切りつかないかもしれなくなるかもしれないという配慮だったようだ。やはり母親というのは自分の子供をよく見ているな。




 ボルツ国に戻る道中何やら物々しい雰囲気になっていることに気がついた。だが最後にボルツ国を出てからまだ2週間くらいだぞ……? もしも戦争が始まるのだとしても急すぎないか。


「多分だけどボルツ王が話を進めたのでしょうね。勇者様がいない間にやれることをやっておこう、といった感じかしら」

「あの王は元々戦争する気だったのか?」

「どうかしらね……私に勇者様の監視を命令したときは何となく戦争したいという感じはあったけど……。でもだからといってこれは早すぎるわ」


 裏で手を引いている奴がいるのだろうか? まあうだうだ悩んでいても分からないものはしょうがない。まずは城に行って色々話を聞く必要があるだろう。そのためにイーナとトルストがいるのだから。

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