別れの時
~数十秒前~
フユキが戦闘している最中、森の中を自由自在に飛び回る存在が居た。ローズとリアンである。
「まさか勇者様が囮なんて豪華ね!」
「そんな事を言っている場合じゃないです! マジックアイテムに気づかれる前に早く見つけ出さないと……!」
フユキ達が発動したのはマジックアイテム『ドペルくん』だ。対象の許可を得ることで、その対象がイメージした行動をしばらくの間する人形のようなものだ。ただし実態はなく触った瞬間霧散するアイテムで視覚に頼る敵に有効。
本来は知的生命体に対してはあまり有効ではないのだが、今回の長射程+タイダルウェイブによる目眩ましによりエルフの青年は気付くことが出来なかった。
(とはいえ闇雲に探し回っても見つけっこない! 何か指標がないと!)
そこでローズは今現在抱えているエルフの少女の存在を思い出す。先程からの青年のリアンへの眼差し……アレは恐らく。だがその前に、
「ねえリアン? エルフだったらこの森の何処に陣取るかしら」
「え? そうですね……普通のエルフだったら恐らくこの森のマナの中心地です。そこが一番マナを有効に扱えるので。でも……」
「でも?」
「私だったらそこから更に北の位置を取ります。川があるので水魔法とは相性が良いです」
(なるほど、一概にエルフと言っても得意魔法によって違うのね……てことはアイツは炎魔法だから……)
「――いえ、彼も水魔法使いです」
「え?」
ローズは驚いて足を止めリアンを見つめる。こんな強い意志で何かを言ったリアンを見たことが無かったから。そして、どうやら怒っている様だったから。
「――ともかく、じゃあ案内してくれる? その位置に」
「任せて下さい!」
そして二人は再び飛び始める。森を闊歩するムササビの如く。
「……今の感触は!? まさか!」
エルフの青年が囮の存在に気がついた時、リアンの魔法は詠唱を終えようとしていた。だが同時に位置が気づかれた。
「……ちょっと間に合わないわね。不意打ちのデカイ一撃は無理だけど足止めはしておきましょうかしらね!」
リアンを置いて再び飛ぶローズ。そこを青年の十八番弓矢が貫こうとする……が、
「マジックアイテムか! 何個持っているんだよ!」
「本当。高価なのにね!」
『インスタントバリア』で矢を弾く。それに動揺した青年の隙を突き、ナイフを投げ、『ボム』を投げ、着地する。そして、
「こんな玩具で僕をどうにか!」
「直接は無理ね! でも間接的になら……!」
そこに第三の強い声が鳴り響く。
「いきますよお父様! スプレッド!」
「気がついていたのかリア、うおおおぉ!」
地面から溢れる水柱。もの凄い水圧が青年を下から思い切り突き上げる。魔法の効果が切れ地面に落下してきた時、青年の首元にローズのナイフが突き立てられていた。
「チェックメイトね」
「二人共無事か!?」
雑魚から戦略的撤退をし、二人の元へと向かう。囮がバレた以上急がなければ二人の命が危ない……!
だがそんな心配は杞憂だったようで二人はエルフの青年と談笑をしていた。何だそれ。
「あら勇者様、おかげ様で勝てたわよ」
「それは良いんだが何を談笑しているんだ」
「フユさん! あのですね、この人は……」
「改めまして勇者様、この子の父親のアルトだよ! 宜しくね!」
随分と急な自己紹介だな……こころなしかリアンも「ビックリしましたか!?」と言うような顔をしている。残念だが何となくそうだとは思っていたからな。
「ああ、フユキだ宜しくな。何か性格が戦っているときと違うように思えるんだが」
「あれ? あっさりしてるね、まあいいや。性格はね~こんな風に幽霊みたいなものだからね、少年から晩年までの性格を内包しているからだよ」
なるほど……? ちょっとした多重人格みたいなものか? 状況によってコイツの若い時の性格になったり年寄りの性格になったり……。
「そんな事よりフユさん! この人が私のお父様って事にどうして驚かないんですか!?」
「いや何となく似ているな、と思っていたからな。親族だろうと予想はついていた。あと、コイツのリアンへの視線が何か見守る感じだったから」
俺がそう言うとエルフの青年、アルトは照れたように笑った。
「ふふ、中々の観察眼だね。できるだけ普通に接していたつもりだったんだけど見抜かれていたとは」
「……聞いて良いものか迷ったが、何で……亡くなったんだ?」
空気を読まずそんな事を聞いてみると、別に気を悪くした様子もなくアルトは答えてくれた。
「十数年前、エルフの里に封印されていたモンスターが暴れたときにちょっと失敗しちゃってね~まだリアンが生まれる前だったから今会えて凄い嬉しいんだよ実は」
「お父様……」
感動の再開だったわけか。しかし、実際に会わなくても家族ってお互いに分かるんだな……としんみりしていると、
「ああ勇者様。そういうわけで私の娘、リアンをどうぞ末永く宜しくおねがいします」
何か嫁入り前の父親みたいなことを言われた。リアンを見ると、「もうお父様ったら!」と照れている。ローズは謎のウィンクを俺にしてくる。どうやら俺が来る前にいろんな情報のやり取りがあったようだな……まあ、リアンさえ良いんだったら構わないが。
「ああ、任せてくれ」
「おっと、伊達にハーレム築いている男は違うね! とっさの嫁入り前の父親の挨拶に対しても誠実だ!」
本当にその挨拶だったのか。というか軽い……。
「父親として良いのか、俺みたいなので」
「ま、何より娘が選んだのならそれを尊重しないとね! ただし……リアンを泣かせたりしたら末代まで呪い殺すけどね……」
怖えよ……まあなるべく努力はしよう。
さて、そろそろ本題に入りたいところだが。
「ああ、そうだね。肝心の報酬がまだだったね! 僕について来てくれるかな」
案内されるままリアンの父親の跡を追う。その間もリアンと仲睦まじい姿を見せつけられて微笑ましいと同時に少し灼けた。でもこの空間から出ると……そう思うと見守るという選択肢しかなかった。
「ここだよ」
そうして連れていかれた先には神聖な大木があった。前も同じような事があったな。エルフと言えば木、なのだろうか?
「さて、一応聞くけど望みは何だい?」
「……今じゃなくて良いんだが俺達の呪いは解けるのか?」
「勇者様!?」
ローズが驚いた顔でこちらを向く。お前が自分の呪いに対して嫌気がさしていることは分かっていたからな。
「まず勇者様。こちらの大木の前に座ってくれない?」
リアンの父親の言われるがまま座る。そして何やら詠唱が始まった。果たしてどうなるんだ?
「ぐ!?」
唐突に体に衝撃が走った。一体これは? リアンの父親の方を見ると何やら申し訳ない顔をしている。
「すまない……呪いを完全に解くことは出来ないようだ。少なくとも今の半分くらいの効果に和らげることは出来るようだが……」
「いや、それで十分だ。感謝する」
今は戦争が控えているから解かないでおこう。
続いてローズが座り呪いの解除が出来るか確かめた所、問題なく出来るそうだ。何やらローズは悩んでいたようだが、
「俺のためにその能力を使おうとか思わなくていい。俺がお前を気に入ったのは能力じゃない」
と言うと珍しく照れた様子で顔を赤くしていた。そしてそのまま呪いを解いてもらい、
「ありがとう勇者様。さっきの言葉、宝物にするわ」
と耳元で囁かれた。呪いが無くなってもコイツはやっぱエロいな……。
そしてリアンの父親との別れが近づいてきた。
「じゃあねリアン! 会えて嬉しかったよ、元気でね! ティタにも宜しく言っておいてくれ!」
「こちらこそお父様に一目会えて嬉しかったです! お父様こそお元気で!」
そしてリアンの父親の姿が消えていった。
「私、お父様があんな人だとは思わなかったですけど。でも、やっぱり会えて良かったです。お母様とちゃんとお話しないと……!」
「そっか。良かったな」
今回の冒険は良いことばかりだったな。俺の呪いが少しは和らげる事が分かったり、ローズの呪いが解けたり、リアンが父親に会えたり……いつもこんなのだと良いんだけどな。
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