エルフの青年
ドラゴンを倒した先を進む俺ら。しばらく歩くとまた転移魔法陣があった。
「これでラストか……」
「次はどんな場所に出るんでしょう?」
「相手はどんなモンスター何だろうね」
そんな取り留めもない会話をしながら魔法陣の上に乗る。目を開けるとそこは森の中だった。
「森か。視界が悪いし敵によってはかなり厄介ね」
「それにしてもこの感覚……何だかエルフの森に似ているような?」
「なるほど、エルフが力を振るうには絶好の場所って訳か」
当てもなく歩いていると所々に罠が設置されていた。初歩的であるが故に難しい落とし穴やワイヤートラップ、カモフラージュ型の魔法陣なんていうのもあった。だがその全てをローズは看破していく。
「なんで分かるんだ?」
「職業柄、罠にかけようとする人の気持ちは良くわかるのよ」
こいつの職業ってスカウトだったっけ? そんな勘違いをしたくなるくらい見事だった。
更に歩くと今度はモンスターの群れ。牛乳パックくらいの大きさの、ハチのような虫モンスターや意思を持った植物など、森に相応しい敵がいっぱいだった。
「罠があるからあまり動かないように! とりあえずここの開けた場所は安全よ!」
「じゃああんまり動かないで済むように遠距離から仕留めてくか……雑魚用の拡散式オーラバースト!」
「虫モンスターが壊滅!? それではあの大きい木のモンスターに焦点を当てて……アクアカッター!」
あの中の恐らくはボスを切り刻むリアンの魔法。だが一瞬で復活し、長い枝のような腕で攻撃を仕掛けてくる。
「そんな、どうして!?」
「根、だな」
ダメージを受けると根からエネルギーを吸収し全快するのだろう。つまり、根をなんとかしないといけないわけだが……。
「よし、ローズは撹乱。リアンは援護してくれ」
「何か手があるのね」
ああ、と頷き前に進む。罠の有無を先に行かせたローズに確認してもらい俺も進む。途中の攻撃の約7割をローズに惹きつけてもらい、残りの枝攻撃や地面からの突き刺しなどを躱しあるいはリアンの魔法で防いでもらいながら近づく。そして、本体目前。
「まあ俺がやれることは一つしか無いんだけどな! オーラバースト!」
ただしこのオーラバーストは外側からの破壊を目的としたものではない。内側に異物である俺のマナを巡らせ破壊する、いわば毒だ。といっても知性がある敵にはすぐに中和され、強者にこれをやっても逆にマナを与えることになるため有効に働くのはモンスターくらいだ。
「中々撃つ機会がないから失敗するかもと思ったけど……成功だな」
哀れ巨大な木は苦しみ喘ぎ、土に還った。
「お疲れ様」
「やっぱり強いですねフユ様!」
笑顔で駆け寄ってくる二人。だが、恐らくアイツが仕掛けてくるとしたらこのタイミングだろう。
「――オーラバースト!」
「へえ。さすがだね勇者様?」
密集隊形になった瞬間、極大級の炎の塊が振ってきた。それを予め溜めておいたオーラバーストでかき消す。
現れたのはもちろん、
「罠に敵で疲弊している所に勝利の隙。完璧なタイミングだったと思ったんだけどね~」
「あいにくと戦闘経験は豊富でな」
「それはそれは。さてさてどうしたものだろうね」
相変わらず爽やかな、だけどどこか演技口調のエルフの青年が姿を現した。
「……全く気が付かなかったわ。予兆とかそんなもの感じられなかった!」
「そう! 本来なら誰も気がつかずゲームオーバーだったのにね」
「あなたが最後の敵なんですね……!」
「……ああ、そうだよリアン」
青年のどこか淋しげな返答に首を傾げるリアン。だが青年は表情を戻すと高らかに宣言した。
「そういうわけで僕が最後の敵だよ。でも君たちが戦うのは僕だけじゃない。エルフの本来の強みは自然を味方につけること。森羅万象すべてが君たちの敵! さあ、始めようか!」
そう言うと森の中に隠れる青年。
「って隠れるの!?」
「油断するなローズ。恐らくだがさっきのような敵に罠を加え、更にアイツが仕掛けてくるはずだ」
「今のうちに詠唱しておきます!」
「そうはさせないよ!」
何処からともなく飛んできた言葉と矢。それを切り落とす。続いて第二矢。それも切り落とす。続いて第三、第四……
「段々間隔が短くなってきている!? バケモノかアイツ!」
「バケモノは君のほうだろう? 全くこの短い間隔の矢を切り落とし続けるなんて。だがこれはどうかな!」
「駄目ね、魔法で言葉が届けられているだけで実際には近くには居ないわ!」
ローズの感覚にも引っかからない位置からの狙撃。それに加えて、
「やっぱりさっきの連中――」
「……ちょっと、これは無理なんじゃない?」
現れたのはさっきのデカイ木が数十体。そして二階のドラゴン……マジかよこれ。
「降参するなら今のうちだよ!」
「誰がするか! ローズ、リアン! 気合い入れろ。俺らなら倒せる!」
「……はい!」
「全くとんだポジティブ野郎ね!」
「うるせえ! リアン、魔法を適当にぶっ放せ!」
「え、は、はい! 適当に……タイダルウェイブ!」
目的は雑魚ではない。いや雑魚の強さではないけど。要は頭であるあの青年さえ倒せばいいんだ。惑わされてはいけない。
そこでこのタイダルウェイブだ。とりあえず敵は攻めて来れないし、弓矢攻撃も止まざるを負えない。その隙に……
「ローズ!」
「分かっているわ、偵察する!」
そしてとあるマジックアイテムを発動。そして――
「見事な水魔法だけどそう長くはもたないでしょう……うん開けてきた。隙だらけだよ!」
「甘い!」
相変わらずの弓矢攻撃、だが更に速度も上がってきている。こんな事が出来るのか!
「いやはや驚いた。まさか僕の自慢の弓矢が一切通用しないなんて! という訳で今からは魔法攻撃、いっくよ~火柱!」
陽気な声とは裏腹に強烈な火柱が俺の足元から噴き出した。それを何とか躱す。だがそこにデカイ木、そしてドラゴンの攻撃が重なると……
「だから、戦闘経験が段違いなんだっつうの!」
何とか躱す、躱す、躱し続ける! と、そこで標的が俺ではなく後ろの二人に移った。
「さっきから詠唱でもしているようだけど隙だらけだよ!……火柱!」
その攻撃に対して一歩も動くことが出来ず、リアンの姿は見えなくなってしまった。
「……今の感触は!? まさか!」
ち。バレてしまったようだ! 頼んだぞ二人とも!
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