実は強いリアンの魔法

 ルビアの居るアンペ国に向かっている途中、久しぶりに盗賊連中に襲われた。


「へへへ……上玉が二匹もいるじゃねえか!」

「お頭! ですが黒い悪魔もいますよ!?」

「むしろ望むところじゃねえか! 昔と違って弱体化してるらしいし、以前世話になったお返しをしないとなぁ!」


「随分嫌われているみたいね、勇者様?」

「覚えがないんだが。そんな事よりもしばらく見なかった盗賊がまた現れたのか」

「魔王が死んだ直後は色々平和だったんだけど、最近また物騒になってきたからね。人間って馬鹿よ」


 盗賊そっちのけで会話をしていると切れて襲いかかってきた。


「テメエら! 俺らを無視するとはいい度胸じゃねえか!」

「囲め! 一斉に突撃して女を人質に取れ!」


 やれやれと武器を構えようとして、そういえばリアンがずっとブツブツ言っているのが気になった。これは……詠唱?


「フユさんに仇なす者に天罰を……タイダルウェイブ!」


 リアンの詠唱が終わった途端、何処からともなく大きな津波が発生し盗賊達を一人残らず巻き込んだ。


「何だこれは!?」

「みず、まほゴバババ……」

「そんなの見たらゴボボボ……」


 そして、誰もいなくなった。凄えなコイツ……詠唱の溜めを除けば、魔法力だけなら魔王軍の幹部クラスなんじゃ? さすがは次期女王か。


「はあ、はあ……見ましたかフユさん! 私も役に立てるんですよ!」

「ああ、偉い偉い」

「エヘヘ……」

 

 しかし、どうやら各地で治安が悪化しているようだな。戦争、始まるのは避けられないようだ。




 あの後三回ほど盗賊連中に襲われたが二人の力もあって難なく撃退できた。それにしても皆、俺の弱体化について言っていたな。確かに以前、俺の呪いについてある程度情報が公開されたが……。


「ローズ、俺の呪いについての情報って新たに出回っているのか?」

「勇者様が魔王を倒した直後に一回大々的なニュースがあったのは知っているわね? 最近になって、またあったのよ。特に勇者様の弱体化を強調するニュースがね」

「情報の出どころは?」

「以前と同じところ――ボルツ国の敵国、ムオ国よ」


 なるほど……俺を召喚した国と戦うのか。そして敵国は俺の弱体化を謳い、こちらの士気低下を狙っているといったところだろうか。敵の中にはあのムカツク男もいるのかな。なんだかんだ世話になった連中だ、あまり戦いたくは無いのだが。


 そうして再びアンペ国に到着。だが、その前に、


「リアン、フードをもう少し深く」

「怪しくないですか?」

「大丈夫、これ以上無いってくらい怪しいけど勇者様が居るから面倒なことにはならないわ。あ、色付きゴーグルも」

「せっかくの人間の街なのに~」


 これで大丈夫。リアンは強いけど少々抜けているところもあるし、もし人間に襲われたとあれば国交問題になるかも知れないしな。盗賊は国に所属してないから良いとしても。


 そしてアンペ国の城内に入ろうとしたが、


「む! 貴様は……勇者様! それに女王のご友人! ……どうぞお通り下さい!」


「滅茶苦茶リアンのこと見てたけど見なかったことにしたみたいね」

「ルビアの命令のようだな。ご友人だってさ」

「会ってもいないのに友人だなんて! 私、今から会うのが楽しみです!」


 こんな脳天気なのがエルフと人間の橋渡しか……心配だな。


「お帰りなさいフユキさん! それとローズさん……?」

「撒くのに失敗したけど何か信用出来るっぽいから仲間にした」

「ええ、改めて宜しくね?」

「は、はい……それと、そちらの方は……?」


 ローズを本当に信用して良いものか気になっているようだがそれよりも更に気になる存在を無視できなかったようだ。確かにこんな怪しい格好のやつ、俺の世界だったら一発で通報モノだからな。


「これもう取っても良いですか?」

「ええ、良いわよ」


 ガサゴソと怪しいアクセサリーを全て取り最後に、フードを外すと長耳が現れルビアの口からまあ、と驚きの声が漏れた。


「はじめまして! 私はエルフの王女、リアンと申します! ルビアさんとおっしゃいましたよね? 宜しくおねがいします!」


 元気よく挨拶をし、握手を求めるリアン。ルビアもそれに応じ、小さな国ではあるが人間の女王とエルフの王女が手を結ぶという、見る者によっては感動的なシーンが俺の目前で繰り広げられていた。こころなしかローズも感動している……ように見える。


「それにしてもエルフが人間と再び国交を結ぼうと思っていたとは思いもよりませんでした……」

「というか、何を考えているかわからない存在だったわけだしね」

「思いを伝えるのは大事、という事だな」


 その後ルビアも交えて事情を説明。難易度の高そうなダンジョン探索に挑むことを伝えると相応のアイテムを調達してくれる、とのこと。そのあとはリアンにせがまれてルビアがアンペ国の案内を自らしていた。お付きのものが、


「そんな事は私にお任せ下さい!」


 と、何度も言っていたがルビアは頑なに断った。まあ一応国賓だし、ルビアがするのに何の間違いも無いだろう。何より楽しそうに手を繋いで案内する二人の光景は、見ていて微笑ましい。


「まるで姉妹のようね」

「そうだな……いつから居た?」

「最初から。勇者様こそ何をしているの?」

「何となく不安でな。お前は?」

「愛しの勇者様がストーカー好意をなさっていたから茶化しにきたの」


 そうは言ってもローズも二人の光景を微笑ましく見守っている。俺同様心配になってきたのだろう。何だかんだ根は良い奴だな。丁度いいし、呪いについて聞いてみよう。


「ティタが言っていたけどお前も呪われてんの?」


 そう言うと途端に無表情になるローズ。言いたくないなら言わなくていいが、と言おうとしてローズが口を開く。


「別に大した話じゃないわ。元々呪い無しで今の仕事やっていたのだけど、ボルツ王が『誘惑の呪い』をかけたらもっと仕事しやすくなるから、って理由でかけたのよ」


 そんな、理由で……。俺が顔を曇らせると頭を叩かれた。


「だから、大した話じゃないって言ったでしょう? ……デメリットは国庫からごっそりとお金が無くなったことと、子供が作れなくなる事。あと男が信用出来なくなった事くらいかしら。どんな真面目ぶった男でも皆私の虜になっちゃうもの」


 そう言って笑うローズ。


「笑い事じゃないだろう」

「怒ってくれているの?」

「そりゃあ、な」

「ふふ、本当に変な人ね勇者様」

 

 そう言うローズの顔はどこか柔らかい表情をしていた。やはりローズも呪いを解きたいようだ。出来ることならコイツの呪いも解いてやりたいけど、そのためにも準備はしっかりしないとな。そう思い直して再び二人の後を追いかけた。

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