騒がしい旅
立ち直ったあの日以来グッスリと眠れる日々が続いていて言うことがない。そういう訳で今も起きる前のグダグダを味わっていた。そこへ空気を壊すノックの音。
「失礼します、フユ様。朝食の用意ができたので起きてきて下さい」
フルルか……。あと30分ぐらい後に行こう。そう思って無視していると、
「早く起きて下さい。料理が冷めてしまいます」
それは一大事だが、起きれない。二度寝って素晴らしい。
「それとリアン様がまたそちらに行っていないでしょうか? 失礼ですが入ります」
リアン? 知らないな。関係ないだろうけど、さっきから謎の暑さと柔らかさに囲まれている気がしたが……確かめるのは止めよう。俺は狸寝入りを続けた。
フルルの足音が近づいてきている。まるでホラー映画を見ているときのように心臓がうるさい。そうしてベッドの所まで来て布団をめくられた。
「リアン様、ローズ様……何をしているのでしょうか」
「あら、フルル。アナタもどう?」
「う~ん……何ですかフルル? あと五分……」
ローズもいたのか。ということは背中の柔らかいのがローズで、俺の前にいるのがリアンか。何やっているんだコイツら。
「フユ様起きて下さい。カオスです」
だからこそ起きたくねえんだよ。
「あらあら動じないわねフルルは。男女がベッドで寝ているのに」
「以前も同じような事がありましたから」
「……へぇ?」
誤解を招くようなことを言うんじゃない。駄目だ、起きよう。これ以上はめんどいことになりそうだ。
「さっきからウルサイなお前ら」
そう言って、さも今目覚めたかのように振る舞ったが、
「おはようございますフユ様。寝たフリは終了ですか」
「演技下手くそよね勇者様」
「あと三分……」
バレてたか。それとリアンはいつまで寝ているんだか。誤魔化すのも兼ねて頭を叩いて起こそう。
「おら、起きろ」
「……痛いれす」
「おはようございますリアン様。今日は朝食作らなくて良かったんですね」
「……ああ! どうして起こしてくれなかったんですかフルル!」
「昨日フユ様に振る舞って満足されたのかと」
「もっともっと美味しいって言われないと満足しないですよ~!」
「モテモテね勇者様?」
まずお前らは何でここにいるのかの説明をしろ。
相変わらずフルルの食事は美味いな。朝からしっかりと食べられる様になったことに感謝しつつ食事を終える。
「そう言えばティタの姿が見えないが何処に行ったんだ?」
「ティタ様は別のエルフの里に行きました。昨日の話がなにか関係あるそうですが詳しいことは分かりません」
俺の呪いの解呪とダンジョン探索、か。俺もダンジョン探索の準備をしないといけないな……。ちょっとしたマジックアイテムや煙幕などの小道具でも買い出しに行ってくるか?
「あら、勇者様。買い出しに行くのなら私もついていくわ」
「……俺、声に出していたか?」
「顔に出ていたわよ」
そんなに分かりやすいだろうか俺。ふとフルルを見るとコクリ、と頷かれた。
「俺もフルル見習って無愛想になろうかな」
「喧嘩売っていますか?」
「それに今でも割と無愛想よ」
お前らも喧嘩売ってるじゃん。
フルルに買い出しに行くことを伝えると、わざわざ見送りに来てくれた。相変わらずムスッとしているが、良いやつだな。
「それではお気をつけて」
「ああ、またすぐ帰ってくるけどな」
そう言って里から出ようとすると、
「ちょっと待ってくださ~い!」
驚いて振り向くとリアンが全力疾走してこちらに突進してきた。
「……どうしたんだ?」
内心びっくりしながら聞くと、
「はぁはぁ……私も連れて行って下さい!」
驚きの回答が返ってきた。フルルを見ると一見無表情だが驚きが顔に現れていた。フルルも聞いていなかったのか。
「駄目に決まっているだろう? ティタが聞いたら何と言うか……」
「お母様からは許可を頂きました!」
マジか。何を考えているんだあの女王。
「魔王いなくなってこれからは人間との交流を深めていく必要もあるわね、って言ってました。そしてその橋渡しに私がなるんです!」
「なるほど……だが危険だぞ?」
「大丈夫です! こう見えて結構強いんですよ、私!」
「盗賊に捕まっていたけどな」
「うぐっ! あ、あれはその! 森の奥だから油断してお昼寝しているところに……」
何やっているんだコイツ……。だが、女王も許可を出して本人もやる気があるというのなら俺に止める権利はないな。なにかあるのなら俺が守ってやればいいだけだし。
「覚悟ができているのなら良いか」
「良いのかしら……?」
「わーい! ありがとうございます! フユ様と旅!」
上天気なリアンとは裏腹に心配そうなフルル。そりゃそうだよな。
「リアン様……本当にお気をつけて下さい」
「もう、心配症ですねフルルは。大丈夫です! これでも次期女王、ですよ!」
「……はい」
余計心配そうだ。すると俺の方を向いて、
「フユ様、リアン様を宜しくお願いします」
そう言って深々と頭を下げた。そんな必要は無いって。
「ま、俺に任せるのは不安だろうが心配するな」
「いえ、フユ様だからこそお願いしているのです」
意外な答えが返ってきた。弄ろうかと思ったけど目が真剣だ。だったら俺も真面目に答えよう。
「リアンを危ない目にはあわせないさ」
「はい、お願いします」
そう言葉を交わし、エルフの里を後にした。
「それで? どこまで買い出しに行くのかしら。一番近い街?」
「いや、一旦ルビアの所まで帰る。そこで準備やらを済まそう」
一応一週間後ダンジョンに挑む、と報告もしておかないとないけないしな。
「ふ~ん、ルビア様の事好きなの?」
「そうだな」
「何だ。焦らないなんてつまんないわね」
アイツ危なっかしくてほっとけ無いからな……。だがその言葉にリアンが激しく反応した。
「え!? ルビア様!? フユさんとどんな関係なんですか!」
それに目を光らせるローズ。まるで新しいおもちゃを見つけた子供のようだ。
「ルビア様は勇者様の愛人候補よ。リアンも勇者様が好きならガンガンいかないと駄目よ? ライバル多いからね」
「が、ガンガン……!」
「お前ら置いてくぞ」
そう言って馬車に乗る。それにしてもウルサイ連中だな、だが嫌いじゃない。ちょっと前まで一人で陰鬱な旅をしていたことを思い返せば、今のこの騒々しさが何と言うか掛け替えのないもののように感じてしまう。
「どうしたの勇者様? ボ~としちゃって」
「いや……幸せだなって」
思わずそう言うとローズは一瞬呆気に取られた後爆笑し、俺の背中を何度も叩いた。リアンはにっこり微笑んで、俺の手をギュッと握った。
「時々面白いこと言うわね勇者様! 良い? こんなのまだまだ幸せには程遠いわよ」
「そうですね。フユ様にはもっともっと幸せになって頂かないと!」
二人の行動と言葉を聞いて、やはり俺はこの上なく幸せな時間を過ごしている。木漏れ日の中、太陽に向かって馬車を走らせながら改めてそう感じた。
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