飯が美味い

 久しぶりのエルフの里だが以前とは異なり、異様な目で見られることは無くなった。どうやら俺の所業がこの里にも知れ渡っているようだ。とはいえ、いきなり態度を軟化させることは難しいらしくどこか遠巻きに俺のことを眺めている。


「失礼な目を向けてゴメンナサイね」

「気にするなティタ。むしろ急に態度を変えて慕って来られる方がキツイ」

「フユ様らしいわね」


 そう言って上品に笑うティタ。あの後リアンに案内されて里の入り口にやって来た俺達は、囲まれはしなかったものの以前と同じように里中のエルフの視線を集め、さてどうしたものかとなっていた所を女王ティタに助けてもらった。


「もう! 私が案内しようと思っていたのにずるいですよお母様?」

「あら? だったらあの状況を一人でどうにかするべきだったわね?」

「ぐぬぬ……」


 相変わらず仲が良い母娘だ。ふとローズを見ると気を使っているのか少し後を歩いていた。俺が視線を向けたことに気がついたのかティタが話を振る。


「それで? そちらの方は?」

「コイツはローズ。俺の仲間だ」

「はじめまして女王様。ローズと申します」


 恭しく頭を下げるローズ。コイツ意外とマナーとか動きとか上流階級に精通しているっぽいんだよな。まあ、コイツの本来の任務を考えると当たり前なのだろうけど。


「仲間、ね。それは本当かしら」


 そう言って鋭い目をするティタ。やはり何か思うことがあるのだろう。俺から正直に話すか。


「勝手に他の奴を入れて悪かったティタ。俺が信用しているといってもお前には関係ないもんな」


 そう言うとティタはこちらに視線を配った。先を続けろ、ということだろう。


「コイツは本来他国の男を虜にする任務についていて、俺のことも誘惑しようとしてきたが信用してくれ」

「無茶苦茶言うわね……」


 先ほどの鋭い目から呆れ顔に変わったティタ。だが何か納得したかのように、


「まあアナタから出ている裏切る匂いの由来が分かったわ。ただ、本当にフユ様の仲間と誓えるかしら」

「もちろんです、女王様」

「ならばこちらへ」


 そう言って俺たちを何処かに連れて行くティタ。連れて行かれた先はどこか神聖な大きい木がある所だった。その前に裏切る匂いについて説明してくれ。


「この木は全てを見通す神木です。この木の前では全ての嘘は通じません。もしも嘘を付こうものならば何かしらの天罰が起きるでしょう。それでもローズさん? あなたは誓えますか」


 嘘発見器みたいな木だな。そう思っているとローズはノータイムで、


「はい、私は勇者フユキ様の仲間です。彼を自分のものにするまでは彼の不幸になることはやりません。もちろんエルフの里に危害を加えることもしません」


 そう答えた。しばらくその場に沈黙が流れたがややあって、


「どうやら本当のようね……。アナタを試してしまって申し訳ありませんでしたローズ様」


 そう言ってティタは頭を下げようとしたが、


「お気になさらず女王様。エルフが人間を警戒するのも、私のことを疑うのも当然のことです」


 そう言って止めさせた。そしてお互い握手する光景、感動的だな。しかし、さっきの発言だと俺がローズのものになると何するかわからない、って事だろ? 不安だな……。


 その後ティタの家に行き食事という流れになった。


「お久しぶりです」

「おう、相変わらず無愛想だな」

「相変わらず失礼です。フユ様は少しお元気になられたようで」

「色々あってな」

「そうですか。良かったですね」


 そう言ってキッチンに消えていくフルル。それを見たローズは、


「何あの娘? 凄い無愛想ね、嫌われているんじゃない勇者様」


 全然分かってないな。特に最後のセリフなんて本心から祝福してくれていたじゃないか。そう謎の優越感に俺は浸っていた。


「じゃーん! 何と今回は! 私も作ったんですよー!」

「大丈夫なのか?」


 フルルに聞くと、


「みっちり修行しましたので」


 誇らしげに傾くフルル。フルルがここまで言うなら期待できそうだな。


「私が作ったのはこの煮物です! どうですか……?」


 リアンの心臓の音が聞こえてきそうなくらい緊張の様子が伝わってくる。食事一つで大げさだな。


「ん? 美味いじゃん」

「本当ですか! やったー! やりましたよフルル!」

「今日の出来は過去最高です。やりましたねリアン様」


 二人のやり取りを微笑ましげに見守るティタ。やっぱ若く見えても母親なんだなぁ。今度は別の料理をつまむ。


「相変わらず魚のソテーも美味い」

「……どうも」


 何か前より素直だなフルル?


「良かったわねフルル」

「……はい」


 ティタからの言葉にも素直に答えるフルル。普段食事を褒めるやついないのか? 勿体ないな……。


「愛人候補がこんなにいるなんて……勇者様はハーレムでも作るつもりなのかしら?」


 頼むからややこしくなりそうな事は言わないでくれ、ローズ。


 食事も終わり、ようやくここに来た要件を伝えるモードに入った。


「実はだな……ここに今日来たのは俺の呪いについてなんだ」

「呪い、ね」


 真面目な話なのだと顔を切り替えるティタとフルル。リアンはいつもどおりだな、安心するからそれで良いや。


「魔王に聞いたんだ。呪いは解けないから呪い、なのだと。実際の所どうなんだ? 本当に解けないのか?」


 最後の頼みの綱ということもあって心臓はバクバクいっている。どうせ駄目だと分かっていてもやはり期待はしてしまう。


「そうね……基本的には魔王の言う通りね」

「……そうか」


 やっぱりそうか……。そうだよな。と、顔を上げるとまだ話は終わっていないとティタ。


「基本的には、と言ったでしょう? 一応呪いを解く方法はあるわ」

「本当か!?」

「喜ぶのは速いわ……フユ様の呪いは本当に重いもの。この方法でも解けるかどうか……いえ解けない確率のほうが高いでしょう。ローズさんの呪いなら解けるでしょうけど」


 ちょっと待て!? ローズも呪い? 驚いてローズを見たが、


「私のことは良いからまずは勇者様の方でしょう?」


 と言われた。その通りだが後で話を聞こう。ティタは咳払いをして話を続ける。


「それに命の保証はない。それでも試すというのなら一週間後までに、ダンジョン探索の準備をしてきなさい」


 そこで今夜はお開き、となった。気になることがいっぱいだった。解呪、ローズの呪い、ダンジョン探索……だが可能性があるというのならば挑戦しないわけにはいかない。高鳴る鼓動を抑え、床についた。

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