重い想い
あれから数日、ルビアの所で穏やかな暮らしをしていたがそろそろエルフの里に帰る頃だ。ルビアとリアンが仲が良いのは予測できたが、ローズもその輪に入っているのが少し驚きだ。ルビアは最初警戒していたようだが、今ではすっかり三人一緒にいる光景が当たり前になっている。
ルビアにローズのことを聞いてみたが、女磨きの知識が半端なく参考になるらしい。それと立ち回り方など、女性として見習うところがいっぱいあって勉強になるとのこと。なるほどなぁ。
部屋でそんな事を考えながらくつろいでいるとノックの音。
「失礼します。フユキさんまだ起きていますか?」
「ああ、どうした?」
そう言ってルビアを招き入れる。
「その、少しお話したいなと思いまして……」
「別に構わないが、業務は良いのか?」
「はい! 昼間のうちに何とか終えました!」
そう笑顔で話すルビア。その様子をじっと見る。一時の事を思えば奇跡だよな、と感慨にふけっているとルビアがモジモジと何やら落ち着かない様子。
「あ、あの、何か変ですか?」
「いやすまん。改めて元気になったなぁと思ってな」
「……フユキさんのお陰ですよ。フユキさんが居なければ私は今頃は……」
そう言って顔を曇らせるルビア。
「そんな顔をするなよ。お前は笑っているのが一番かわいいんだから」
「え!? あ、ありがとうございます! か、可愛いですか?」
「ん? ああ。魅力的な女性だし、引く手数多だろう?」
楽しい話を続けようと思って出した話題だが、やはり顔を曇らせるルビア。何でだ。
「……私今でもまだあの頃の夢を見ます。ユキという魔族に人に言えないことをされて……やってはいけないことをして。この事を知っても私を変わらず見ていてくれる方は居るでしょうか」
「いるさ。少なくともここに一人」
ルビアの目を見て即答してやる。あんな程度、俺のやったことに比べれば温い。それなのに俺を俺と認めてくれて接してくれる奴らが居るんだ。ルビアだって許されるべきだ。そんな思いを込めたのだが変わらずルビアは下を見ている。伝わらなかったのだろうか、と不安に思っていると、
「じゃ、じゃあフユキさんは! 私を、その……あ、愛人に出来るんですか!?」
……いくつかステップをぶっ飛ばしていきなり直球を投げ込んできたなコイツ。
「それはもちろん良いが……お前はそれで良いのか?」
仮にも一国の女王が愛人というのはどうなんだろう? というか俺で良いのか? 若干混乱しながら答えると、
「え、あ、良いんですか……!? 本当に……?」
向こうも動揺している。何だこれ。だがここは嘘偽り無い俺の気持ちを伝えよう。
「お前は俺に助けられたと思っているようだが、俺もお前に助けられているんだよ。あの頃俺は、誰かに感謝の言葉とかそういうのが欲しくて、飢えていて、仕方のない時期だったんだ。だから、あの時、俺は自分のためにお前を助けたんだ……こんな自己中心的なのが俺だぞ? 良いのか?」
「はい……! もう、フユキさんに頭を撫でられるだけじゃ駄目なんです……アナタと共に人生を歩みたい。例え奴隷でもペットでも。アナタと一緒じゃないと私は生きていけないんです」
涙を流しながら微笑むルビア。
「いちいち重たいんだよ、お前は」
そう言って抱きしめて重なり合った。
「……本当に重たい」
朝、謎の圧迫感に目が覚めるとルビアが俺の上に乗り抱きしめながら寝ていた。剥がそうとしたが全然離れてくれない。何だコイツ。
「フユキさん……エヘヘ……」
……まあ、少しは大目に見てやるか。今日でしばらくお別れだしな。
その少し後目が覚めたルビアに滅茶苦茶謝られた。
「まあ、もうしないなら良いさ」
「……」
なんか言えよ。
ややあって別れの時。リアンは言うまでもないがローズも少し寂しそうだ。
「また会いましょう! 今度は私の里を案内しますね~!」
「憑き物が取れたようで何よりだわ。勇者様は皆で共有しないとね」
お前の差し金か。
「じゃあなルビア。近々会うことになるだろうがその時まで元気で」
「はい! フユキさん、それに皆もお元気で!」
女王自ら俺らの馬車が見えなくなるまで手を振ってくれるとは豪華な見送りだ。
「しかし色んなマジックアイテム貰ったけどこんなに使い時があるか?」
「勇者様の弱体を補うんだからこれでも足りないんじゃない?」
「フユさんの命には変えられません! 貰えるなら貰えるだけ貰いましょう!」
まあそれもそうか。どうやら難易度の高いだんじょんらしいからな……準備しすぎる事は無いか。
弱体の話だが、魔王を倒し俺の呪いが公表されたあの日以来日に日に弱くなっているのが自分でも分かる。もう、イーナに勝つことは出来ないかもな……喧嘩はしないように努力しよう。
そんな事を考えていると魔物の集団に遭遇した。
「これだけ多くの魔物とは随分珍しいな」
「魔王が死んでからは大半の魔物は元の世界に帰ったからね」
「とりあえず詠唱します!」
リアンの詠唱の間の隙を俺とローズで埋める。俺が主にヘイト稼ぎを務め、それでも漏れてリアンに向かった連中をローズが仕留める。そしてリアンの大魔法を放ち、それでも残った連中を三人で連携し駆逐していく。
「中々良いパーティーじゃないか、俺たち」
「リアンの負担が大きいけどね」
「いえ! フユさんとローズさんも負担が大きいですよ?」
何だかんだ、俺はまだまだ戦えるな。一人で無理なら皆で戦えば良いんだ。ずっと忘れていたかもな、皆で何かをするということを。
気持ちを新たに再確認した所でエルフの里に帰ってきた。
「久しぶりの我が里です! やっぱり家が一番ですね!」
そこは人もエルフも異世界人も変わらないようだ。
「お帰りなさい皆さん。リアンの面倒見てくれてありがとね」
「お母様! あのですね、ちゃんと橋渡しの役目務めてきました!」
「そう、流石ね」
そう言って頭をポンポンとしながらチラリとこちらを見てくるティタ。本当のところは? と視線で訴えてきたのでコクリと頷いてやった。するとにっこり微笑んでリアンを撫でるどころかワシャワシャし始めた。まるで犬みたいだな。と、フルルがこちらをジッと見ていることに気がついた。
「ちゃんと守ってやった……と言いたい所だが俺の助け、別にいらなかったぞ? 強いし、女王と親交を深めていたし……」
「いえ、ありがとうございます。この度リアン様あのように笑顔を浮かべて帰ってきたのはフユ様のお陰です」
絶対俺、関係ないんだけどな……と思っていると、
「馬鹿ね。アンタが居なけりゃあんな大魔法撃てないし、知らない女性とあんなに仲良くなれないわよ。気づいてあげなさい」
ローズに怒られてしまった。少しリアンのことを誤解していたのかも知れないな。しっかりとした目で見ないとな。
その日は夜も遅いこともあって、ダンジョン攻略は翌日になった。まるで次の日が修学旅行の時のようにドキドキして眠れない夜を過ごした。
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