オッサンとの再会

 次の日イーナたちは去っていった。その間ルビアとイーナは良く喋っていて帰る頃にはお互いに名前を呼び捨てで呼び合う仲になっていた。イーナたちが見えなくなるまで隠れていた俺は物陰から現れて、

「まさかイーナとあんなに仲良くなるとは思わなかった。何か趣味が同じだったりしたのか?」


 あるいは年が同じだったからか?不思議に思ってそう聞くと、ルビアはこちらをチラリと見て言った。


「趣味というか、好きなものが同じだったんです。それで馬があったって感じですね」

「へえ、好きなものか。何だろう?」


 腕を組んで考えるが皆目見当つかない。しょうがなく眼で答えを促すが、ルビアは花が咲いたように唇に人差し指を当てて言った。

「女同士の秘密です」

 訳が分からんが笑っているんならそれでいいや。

 そういえば、俺が黒い悪魔って気付いていたようだしそろそろ俺も話していかないといけないな……そう思って話そうとしたがルビアに遮られた。


「なあルビア、俺はさ――」

「フユキさん、その、頭をなでては頂けませんか?」

「ああ?いいけど」


 自分から言うなんて珍しいな、そう思いつつも頭を撫でるとルビアは嬉しそうに目を細めた。


「フユキさん、フユキさんにこうして頂けるだけで、私はそれだけで良いんです。フユキさんの過去も気にしません。今、この瞬間頭を撫でてくれている、それだけで私は頑張れるんです。ですので、たまに、たまにでいいのでこうやって頭を撫でてはもらえませんか?」


 と、恥ずかしいのか拒否されるのかもしれないという心配からか、最後の方は殆ど聞こえない声でルビアは言った。俺が過去について言ってもそれは自己満足かもしれないな、そう思い直し結局言わないことにした。

 そんなわけで俺が別に構わない、と言うとルビアは安心と照れが入り混じった面白い顔をした。


 そうしてそれからまたしばらく時間が過ぎた。ボルツ国、イーナの国の支援が始まりこれまでは精々宿屋と行商人しかなかったこの国はみるみるうちに修復されていき、元の国に戻っていっているようだった。俺も姿を見せずに行動するのがなかなか難しくなってきた。


「本当は属国にならなければ良かったのですが、背に腹は変えられませんよね」

 と、少し悔しそうにしたルビアの表情が印象的だった。


 復興にあたって建設の優先順位、配置、法、限られた予算の使い方、人員の扱い方、などルビアは優秀だった。ボルツ国から来た人員もはじめはこんな小娘の言うことなんて、と乾いた眼をしていたようだが一週間もするとルビア様!ルビア様!と尊敬の眼差しで見るようになっていた。

 どうやら本来は別の国に嫁ぎ、そこでその国の更なる繁栄ひいては元いた国の繁栄につながる事が出来るよう、英才教育を受けていたようだ。つまりルビアは優秀な王となれる知識を持っていた。


 そんな復興が順調に進んでいる夜のこと、俺は一人この国から出て少し離れた草原に佇んでいた。そこに客が一人。


「あっれ少年じゃん! ひっさしぶり~」

 いつかのオッサンがゆっくりと手を振りながらこちらに向かって歩いてきた。

「白々しいな、俺がいるって分かった瞬間進路変えただろ」

「おっと、バレてたかやるじゃん少年」


 あっはっは、と楽しそうに笑うオッサン。が、オッサンは荷物を下ろすとすぐに目を細めて、

「ちなみに僕の正体にはいつから?」

「この前模擬戦した時。俺より強いやつって魔王軍連中しかいないだろうからな」

「参ったな! 強すぎてバレたか! もっと手加減するべきだったかな~」


 全然参ってないようにオッサンは笑う。

「オッサンこそ何でわざわざ剣気で存在感を出したんだ? 俺があの国にいるって気付いてたのか?」

 オッサンは剣気で、ある程度の実力者にしかわからないように自分の存在をアピールしてきた。まるで宣戦布告のようだった。それに対して俺も剣気で返したのでそう感じたのは間違いではなかったかもしれない。事実オッサンも俺も示し合わせたように今、ここにいる。


「いやもしかしたらいるかも、と思ったけど念の為だね。少年がいるのに国に入ってから皆殺しを始めたら何人か取り逃すかもしれないからな~」

「なるほど確実に滅ぼすために俺を呼び出したのか」

「大正解~! 少年こそどうしてこの国にいたんだい? 復興の助けでもしてたの?」

「流石に幹部を四分の三削ったら魔王軍も焦るかと思ってな。そんなやつらがどうするか、って考えた時に復興中の国を潰すのが一番ダメージがでかいと思ったのさ。オッサンも好きだろ、釣り」


 そう、今日まで俺がルビアと復興の支援をしてきたのは所在の知れない最後の幹部が現れるのを待つためだった。

「なるほど! つまり完全に少年の手玉に取られったていうのか! 参ったな~」

 オッサンは笑いながら頭をかいて、

「けど少年、釣りっていうのは餌に食いついてからが勝負なんだよ? 少年は僕に勝てるのかい?」

 と嬉しそうにいった。まるで目の前にご馳走があるのを待ちきれない少年のようだった。


「いつかどこかでお節介バカも言ってたけどな――」

 イーナの顔を思い出す。アイツの言葉はいつまでも覚えている。

「勝てるか勝てないじゃない、勝つんだ」

 そう剣をオッサンに向けて俺も笑った。


「ふふ、良い目をするじゃないか! 幹部を三人倒して自信でも付いたのかな? 確かにユキを倒したのは凄いよ。彼女は僕が幹部になったときは既に幹部だったし、それからもずっと入れ替わりがなく幹部で居続けた一人で、彼女に勝てるのは僕か魔王の二人だけだったと思っていたからね! びっくりだよ」


 拍手をしながらオッサンは言う。というかその言い分だとオッサンも幹部で居続けた一人じゃねえか。実際オッサンは強い。以前の模擬戦では全く勝てるビジョンが見えなかったし、今やっても分からない。だがやるしか無い。


「でも、だからといって僕に勝てるわけじゃ無いんだよ? あの時君に足りなかったもの、特に技術と頼れる剣の用意はできたかい?」

「それを今から証明してやるさ。もう良いだろ言葉は。さあ始めようぜ!」


 その言葉を合図にお互い動き始めた。二人共かつて親しくした仲でこれから殺し合うというのに、悪い遊びを始める少年同士のような良い笑顔をしていた。

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