リベンジ

 ここは氷の城の王室。そこに女の子とペットが居た。


「あらあら、まだご飯残ってるわよ? 残したら駄目よ」

「わん……」

 とひと鳴きするとペットはご飯――とは口が裂けても言えない何かの肉、体液、が入り混じったもの――を綺麗に食べた。


「そうそう、えらいえらい――あら、そういえば良いよっていうまでトイレしちゃ駄目って言ったんだっけ? 良いよ、そこでしてね」

 女の子が視線で示すとペットは首輪に繋がれた鎖をジャラジャラと鳴らしながら、ハッハッと向かう。

「うんうん。最初は生意気だったけど、姉妹を目の前で躾ける姿を見せてからはお利口ね」

 

 ニコニコしながら女の子はペットの排泄する姿を見る。女の子がじっと見ているのをペットは目をつぶって受け入れている。そこに客が舞い込んできた。


「ユキ様! ユキ様に言われた通り、し、親友の妻と娘を犯して殺しました! こ、これで私の家族は――」


 そういった男の視線の先には全身傷だらけ、自慢の綺麗な金髪の髪はボロボロ、女性の大事な二つの部位にピアスが開けられ、首輪で繋がれた一糸まとわぬ娘の姿があった。自分の記憶にあった、この国の王族の血を引くものして恥ずかしくない淑女としての姿はどこにもなかった。そしてペット――娘が食事をしていたところには、最愛の妻に渡したはずの指輪が落ちていた。


「全員無事に返すとは言ってないわ。少なくとも娘は無事だから良いわよね? でも、人語はもう喋れないかもね! 念入りに調教したから!」

 まるで楽しい劇を見るかの如く女の子は笑う。二人のやり取りを見ながら娘はクーンと鳴いた。

「き、貴様ァ! 殺す! 殺してやる! フレイムウォール! フレイムレーザー!」

 男はこの国の王で、優秀な魔法使いでもあった。せめて一矢報いる……そんな思いを込めて、男の魔力全てをこめて撃った魔法は、女の子に届く前に霧散した。

「な……に……?」

 あまりの出来事に呆然とする男。そこにクスクスと笑いながら女の子が近づいてくる。

「私ね、昔魔法攻撃に手を焼かれちゃったことがあってね、どうすれば良いかなと思ってこのマジックアイテムを手に入れたの! これで魔王様だって私には適わないわ! でも、魔王様は私を痛めつけたりしないから仲良くするの!」

 そう言って見せつけるのは「アンチマジック」と呼ばれるアイテム。これに魔力が込められている限り魔法攻撃を一切受け付けない。ただし、魔力を込めるには優れた魔術師数十人を捧げなければならないが、ここは魔法大国として有名だった。

 男は驚愕の顔を浮かべ、絶望した。一矢報いるどころか傷一つ付けることは出来ないと分かったからだ。そして男が守るべきものはもう――

「それで? 次はどうするの?」

 男の前で女の子、ユキが首を傾げる。だが男は心が折れ、膝から崩れ落ちた。それを見てユキは愛想を尽かしたかのように魔法でバラバラにした。

「つまらないわ! この前の愚者を見習いなさい。まだあっちの方が面白かったわ……早く来ないかしら」

 まるで王子様を待ち焦がれる少女のような顔つきをしてユキはため息を付いた。ふとユキが下を見ると、娘が先程まで父親だったものを涙を流しながら舐めていた。

「……飽きたわ」

 そう言うとユキは娘を担ぎ、

「最後は魔王軍の兵士達の性欲処理の道具として役に立って貰おうかしら」

 そう言って兵たちの詰所へ歩き始めた。その間娘はクーンクーンと鳴き続けることしか出来なかった。


 目的地に着き、娘を魔族の兵士たちに向かって投げる。

「この子も飽きたから好きにしていいわ!」

 そう言うと一斉に兵士たちは娘に向かった。ユキはその光景をうっとりとした表情で眺める。

 元々ユキは虐げられる側だった。常に痛めつけられ、嬲り続けられたユキはとある呪いと出会う。そうして、物理攻撃を無効化し、逆にやり返すようになると魔法の才能も開花した。それ以来ユキは自分が昔やられていたことをやり返すことにした。それを繰り返すうちに復讐の対象は居なくなったがユキの炎は消えなかった。ユキは今日もあの日自分を痛めつけていた者達と同じことをする。明日も、明後日もするだろう――この男さえ居なければ。




「オーラバースト!」


 俺はいきなり大技を叩き込み雑魚を散らした。今の一撃で周囲の兵たちは死んだようだ。チラリと全裸の女を見るとワン!とひと鳴きした。……意味が分からんがおびただしい傷を見るに、ユキの玩具のひとつなのだろう。ユキの方を見ると、まるで待ち望んだ誕生日プレゼントが渡される直前のようにクルクルと狂喜していた。


「ああ! ああ! やっぱりいい子にするものね! 望んだ時に望んだものが手に入るなんて!」

「お前が良い子なら悪い子なんてこの世には存在しなくなるな」

「あらあら、この前逃げたとは思えない口調ね? それともあまりに怖くて忘れたのかしら」 


 クスクスと笑い続けるユキ。何がそんなに面白いんだか。俺はよつん這いになっている女にじっとしていろと言い、ユキに剣を向ける。

「逃げたんじゃねえ。猶予を与えたのさ」

「猶予?」

「残り少ない人生を大切にと思ってな。お前は今日ここで死ぬからな」

「クスクス、この前ので分かったと思うけど私に物理攻撃は効かないわ! で、どうするの? 魔法の特訓でもしてきた?」


 まるで俺にそうだ、と答えてほしいかのように様子をうかがってくるが……

「ふん、魔法なんてくだらん」

 あれだけエルフの女王にマンツーマンで教わったのに使えないしな。そう言うとユキはポカンとして、

「え? 何で?」

 と首を傾げた。まさか魔法対策でもしていたのか? 馬鹿め! 無駄になったようだな!

「お前が魔法対策しているのは当然予想済みだったのさ」

「な!? だったら一体どうやって私に勝つというの!?」

 お、ハッタリかましたけど正解だったようだ、そして明らかに怯えている様子。何だ、恐いのか?

「当然この剣さ」

 そう言うとユキは一瞬呆気にとられ、大爆笑をした。

「クスクス、あなた面白いわ! そっか前回の戦いでオカシクなっちゃたのね、可哀想に! 良いわ、本当は女の子しかしないんだけどあなたも調教してあげる!」


 っと、流石にこの狭い空間では不利か。俺は用意していた煙幕を使い女を抱えて逃げた。そして適当なところに隠し、外庭に出ると魔法が振ってきた。

「くだらないものを使って……本当に逃げるのが好きね? でも逃げ場はないわ!」

 そう言って氷魔法のフルコースを放ってくるユキ。だが前回よりも脅威は感じない。やはり呪いでだいぶ強くなっているのだろう。

「分かったか哀れなガキ? 逃げる必要がないんだよ」

 そう言うとさっきまで楽しそうだったのに急に顔を歪めて、

「誰が……哀れだ! いたぶられるのは、弱者はお前だ!」

 氷の槍、氷漬け、空間魔法全て避けるあるいは斬り潰す。ユキは信じられない、という表情をしている。少しは精神的ダメージを与えられたかな。

 そしてユキに接敵し、渾身のオーラバーストを放つ。

「ふふ! だから攻撃は効かないとい、ギャアアア!」


 パキパキと音を立てて崩れ落ちる剣。オーラバーストに耐えられなかったが、剣一本と引き換えにユキの腕一本を斬った。ふふん、やはり俺の考えは正しかったようだ。物理攻撃が通じないなら通じるまで強くなれば良い作戦大成功だな。元々ほんの少しは効いていたオーラバーストだが強くなった俺に伴って威力も上がったのだろう。


「な、何で? だって呪い! 物理攻撃、効かないって!」

 混乱しているユキ、更に煽ってみるか。

「呪いに頼り過ぎで自分の身体能力を高めなかったお前が悪い。それと呪われているのはお前だけじゃない、俺もだ」

 自分の事を棚上げしてそんな事を言うとユキは怯えたような顔つきでこちらを見てきた。

「の、呪い?」

「そう、相手の呪いを無効化する呪いさ。つまりお前は……ただのガキだ」

 そう言って一歩、また一歩と近づいていくと、

「う、わあああ! 来るな来るな! やめて! 痛くしないで! せっかく呪われたのに! 救われたのに! またあの日に戻れと言うの!? お願いします! 反省するから! 良い子にするからっ!」

 少し考えればすぐ嘘だと分かるはずなのにユキは動揺し慌てふためき懇願してきた。まだまだ戦えるはずなのに……だがこの機会を逃しはしない。俺は二本目の剣を抜き、

「先に地獄で反省してろ。せめて痛くはしないでやるさ――フルオーラバースト!」

 剣は跡形もなく崩れ去った。それと同様ユキという存在もこの世から消滅した。しばらくして氷の城が溶け始めた。どうやらユキの魔力すらも無くなっていったということだろう。


「何だ!? 氷が溶け始めるとは!」

「報告します! ユキ様が殺されました!」

「馬鹿な! あの化け物が殺されるなんて……に、逃げろ!」

 魔王軍は総崩れとなってこの城から逃げ出していった。この城に無事だった人が居るかどうかは分からないが、俺に出来るのはここまでだな……。

 

 残りの幹部は一人そして魔王……もう少しだ。もう少しだから頑張れ、俺。

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