魔王軍幹部の実力

 魔王軍は魔王とその部下の幹部、そして更にその部下の……というふうに構成されているらしい。そして幹部は各地域で指揮を取り人類に対して攻撃を仕掛けている。そこで俺は戦力を削ぐためにまずは幹部から消していくことにした。最初に倒して拷問した幹部曰く全部で四人らしいのであと二人で終わる。幹部全員が同じくらいの強さだとは思わないが、それでも二人も倒しているので残り二人、魔王を入れて三人、何だか終りが見えてくる感じがした。


 また、この世界ではランクというものがある。冒険者ギルドの奴らが勝手に作った基準みたいなものだ。Fから始まり一番強いやつはSSSというランクを付けられている。人間が個人で倒せる限界がCとされており、Bは一つのパーティーで倒せるかどうか、Aはそんなパーティーが集まって倒せるかどうかという、普通の人間にとっては災害レベルのものだ。ちなみにイーナはAくらいの実力だ。そして魔王軍の幹部はSとされており、魔王はSSS、俺こと「黒い悪魔」はSSと評価されていた。

 だからというわけではないが「終りが見えてくる」、なんて少々楽観的なことを思った。だが、このときの俺はそう思っていたし願っていた。早く帰ってお袋の作るカレー、この際卵焼きでも何でも良い! とにかく帰りたかった。旅先で食べる非常食は不味かった。


 数日は徒歩で向かったが、途中商人に化けた盗賊たちという良いタクシーが通りかかったので強奪し、幹部のいる国へ向かわせた。

「ほ、本当に行くんですかい……? マジで止めといたほうが良いですよ」

「そうそう国民は玩具扱いで、俺らみたいな盗賊ですら危なくて立ち寄ったり火事場泥棒したりしないんです」

 盗賊たちはそう口々に言い合う。


「もしかして……勇者様なんで? 世界を救うとか?」

 一人の盗賊がそう言った、瞬間俺はその盗賊に剣を刺した。

「勇者ってこういう事するのか?」

「あああ! いえ、何でもありません!」

「ふん」


 鼻を鳴らして剣を引くと盗賊は倒れ込んだが別の奴に簡易治療されていた。ふと剣を見るとまるで俺の心のように汚い血で汚れていたので取り替えることにした。盗賊に盗品を漁らせ剣をいくつか回収するといったことをやり、それが終わると皆怯えているのだろう、静かな時間が流れただ馬車が街道を進んでいた。


 まだまだ魔王軍がいる国には遠いがそこで馬車が止まった。

「すみません旦那、これ以上は目立ちます……ここまででご容赦を」

 申し訳無さそうに盗賊が告げる。だがもっともな意見だと思い良しとした。

「ああご苦労だった。じゃあ全員降りろ」

「え? いやこの馬車も大事な商売ど……」

「まだ刺されたりないか」

「ひ……ひー!」

 やれやれ一々脅さないといけないなんて宣伝不足だぜあいつら。俺はため息をつくと再び馬車を走らせた。


 魔王軍の支配している氷の国が目視できる辺りで敵襲を受けた。中を一切確認せずに激しい攻撃をかましてくるとはな、死んだら玩具になれないというのに。すまん馬、代わりに敵は取ってやるぜ!

 馬車から飛び出すと同時に必殺技を放つ。それで数十匹の魔物は絶命したが、まだまだわんさかいやがる。まあ良い、ここで無限に魔物を殺していたらそのうち幹部も現れるだろう、そうのん気に構えひたすら狩る作業が始まった。


「あらあら、勇者が来たと思ったけど単なる愚者のようね。そんな疲れた状態でこの国を開放できるとでも?」

 数時間後、人形のような冷たい眼をした見た目十歳前後の少女が現れた。俺はニヤリと笑い、

「安心しな、準備運動ってやつだ。それと別にこの国はどうでもいいのさ」

 そう言うと少女は心底可笑しそうに笑い、

「あら? それなら貴方は何をしに来たのかしら?」

 そう首を傾げたので俺は剣を少女に向け、

「この国を支配している魔王軍の幹部って奴を殺しに」

「クスクス、結局同じじゃない! 人間って本当に面白いわ……本当に良い玩具! それでは初めまして愚者さん? 私はユキ、貴方の探している幹部な訳だけど貴方に私が殺せるかしら」

 クスクスと少女の姿をした何者かが笑い、魔法の準備をする。きっと本当にただの玩具が来たと思っているのだろうが、果たして数分後も笑ってられるかな?


 数分後――

「あらあら、何処へ行くというの? そっちに私はいないわ」

「うるせえ! 腹が減ったから帰るんだよ!」

 そう叫び逃げる。何だこいつは! 俺が倒した二人と全然違うじゃねえか、反則だ反則! 攻撃が全く通じないなんて!

 相手の攻撃をかわして逃げ、そんなことを繰り返しているうちに逃げ場のない崖の近くまで追いやられた。


「アイシクルランス」

「ぐっ!」

「フリーズ」

「ふっ!」

「ブリザード」

「どらぁ!」


 突然超速で突き刺さってくる魔氷の槍を避け、全身を氷漬けにしてくる魔法をかわし、辺り一帯を氷と雪の空間にする魔法をオーラバーストで潰す。そうして再び逃げようと前を向くとユキがいた。

「オーラバースト!」

 何度目かになるかわからない攻撃を繰り出したが、ユキには通じていない。今度はオーラバーストで攻撃してみた。普通の剣撃よりは効いている気がしたが誤差のようだった。


「くそ!攻撃が効かないなんて一体どういう手品だ!?」

「クスクス、痛いわぁ? でも……捕まえた。鬼ごっこはお終いね?」

「しまっ」

「氷漬けになりなさい」


 一瞬の隙を突かれ、右手を万力のような握力で捕まれると同時に魔法を掛けられた。すぐにユキのみぞおちを蹴り何とか離れたが右手の先から肩まで氷漬けになっていた。これでは下手に動かすと腕が取れる……。


「ゲームオーバーってやつね? ああ楽しかったわ! それではさようなら愚者さん」

 ユキという少女の皮を被った魔物は満足したかのように笑う。だから俺も勝ち目はなくとも負けじと笑い返す。何故ってムカツクからだ。

「俺はなゲーセンではクリアできるまで連コインするタイプなんだ」

「ん? 何を言っているの愚者さん?」

 お前にはわからないだろうさ。つまり何が言いたいかというと、

「次会うときは殺すって事だ。またな!」


 そう言って崖から飛び降りる。はてさて生き残れるかな、残れたとして腕は大丈夫か。それは分からないがここで死ぬわけには行かない!

 落下しながらユキを見る。そこには向日葵の花のような笑顔を浮かべている化け物が立っていた。

「まだまだ遊べるのね! 嬉しいわ!」

 そう言った気がした。絶対後悔させてやる……! そう誓い目を閉じ右腕をマナエネルギーで守り重力に身を委ねた。


 目が覚めると俺は川沿いのところで倒れていた。自分でも呆れるがどうやら生きているようだ。さっきまで戦っていた所からは遥か遠く離れた所らしい。右腕は相変わらず凍っているが……まあ問題はないな、そうして起き上がろうとするが力が入らない。かなり体力を消耗しているようだ。という訳で再び寝ることにした。普段は中々眠れないがこの時は死ぬほど疲れていたのだろう、一瞬だった。

 束の間の睡眠をし、目を開けるとこちらを覗き込んでいた少女と目が合った。


「あ! 生きてた!」

 耳元でうるせっ。迷惑そうな顔をしたのが分かったのだろう、申し訳無さそうに、

「す、すみません! 死んでいるのかと思ったので。あのこんな所で何をしているんですか?」

 心底不思議そうに聞いてくる少女。俺は正直に、

「寝てた」

 と言うと少女はふふっと笑って、

「変な人ですね。人間って皆貴方みたいなんですか?」

 と不思議なことを言ってきた。よく見ると耳が長く色白な少女のようで普通の人間とは違うみたいだ。

「お前は? 人間じゃないのか」

「え? あ! フードが取れてる!?……うーんしょうがないです」

 コホンと咳払いをし、

「リアンと申します。エルフですけど、どうか宜しくお願いしますね?」

 そう不安そうに自己紹介をした。

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