オッサン
「しかし、あいつはなんで俺に向かってこれるんだろうな。逆の立場なら絶対イヤだけどな?」
「にゃー」
相変わらず生返事な猫だ。喉を撫でると嬉しそうに鳴いた、そろそろ出るか。
「休憩も終わったし、じゃあな野良猫。ここにいると死ぬから出てけよー」
そう言って餌を外に投げるとダッシュで追いかけていった。これで多分大丈夫だろう。そして騒がしくなってきた外をうかがう。
「この街の冒険者ギルドの奴らだな。勇敢なのか俺の悪評がここではそこまで届いていないのか、どっちでもやることは同じだな」
そうしてしばらく酒を飲んで待ち外に出ると、数十人の冒険者達が待ち構えていた。
「そちらから来るとは! だが死んでもらうぞ黒い悪魔!」
俺の黒髪は珍しいのか、いつしかそんな通り名がついていた。
「良いから来な。それとも恐いのかい」
「む! かかれ! 編成を崩すな! タイミングを合わせて一気に――」
「――みんな仲良くぶっ飛びな!『オーラバースト!』」
先日覚えた技――オーラバーストと名付けた――を団体に叩き込む。複数人を相手する時に凄く便利で気に入っているがよく剣が壊れるのが玉に傷。今回は団体の中に剣士が一杯いるので遠慮なく叩き込んで奪うことにした。また、この技は複数人だけでなく出力をコントロールすれば単体にも大ダメージを与えることができるがそうそう使うことはない。
辺りを見回すと何人か難を逃れた奴もいるが既に戦意喪失状態だ。手頃な魔法使いを一人捕獲し、良い感じの剣を拾い命ずる。
「お仲間の命が惜しくば店を焼け」
「ひっ! み、店?」
「質問は許していない、これは命令だ。取り敢えず指を折っていくか」
魔法使いの仲間っぽい女の指を一本また一本と折ると甲高い耳障りな悲鳴をあげた。
「わ、分かった! 分かったから! 店を焼くから!」
酒場が燃えている。その光景を呆然として眺める者、俺のせいじゃないと壊れたラジオのように呟く者、泣きながらただ見ている者様々だった。こうやって俺は町や村に着くたびに重要な場所や住民が必要とする所などを破壊してきた。例えばそれは教会だったり、観光名所だったり、公衆浴場だったり……今回はそれが酒場だった、それだけの事だ。
気がつくと皆こちらを見ていた、あるいは見ないようにしてこちらをうかがっていた。そんないつもの光景に鼻を鳴らして次の目的地に向かった。魔王軍の幹部に滅ぼされ、人間が家畜のような扱いを受けている氷の国へ。
道中魔物の群れに出くわした。避ける理由もないのでオーラバーストで一気に屠る。相変わらず音を立てて剣は崩れ落ちる。
「これさえなけりゃあな……」
「いやいや見事見事!」
いつの間に居たのだろうか、拍手をしながら奥からオッサンが現れる。何者だコイツ? 全く気配感じなかったしかなり強いな……。
「おっと怪しいものじゃないから安心したまえ! 僕は通りすがりの剣士さ! ところで少年面白い技を使えるんだね。僕以外に武器を介してマナエネルギーを放つ事ができる奴に会えるとは思わなかったよ!」
警戒しているとそんな事を言ってきた。そんなに珍しい技だったのか……。でもこのオッサンにも出来るんだしな。と考えていたが、
「だけどまだまだ甘いね! 少年、僕で良ければアドバイスしてやれるけどどうだい?」
「なんでわざわざそんな事を?」
当然の疑問を返すとオッサンはポリポリと頬を掻きながら、
「いや、何というか若者に道を示すのもオッサンの役割ってやつじゃん? あと少年、君は身体能力は高いのに技術が低い! 勿体ない!」
「なるほど、良く分からんがまあ良いや。宜しく頼む」
俺は頭を下げて頼むとオッサンは少し驚いて、
「意外だな~! 言ってはみたものの技術低いとか言ったし怪しいし、断られると思ったよ」
「技術の低さは自覚してたしな。あとオッサン確かに怪しいけど他意は無さそうだから」
と、言葉を交わすとお互いに笑いあった。そしてオッサンからマナエネルギーを放つ際のコツや、エネルギーの絞り方、基本的な剣の扱いなどを教わった。オッサンは強かった。身体能力は俺のほうが圧倒的に高いが、オッサンの技術力はそれを軽く凌駕した。どれだけフェイント入れようが全力でぶった斬ろうが全て読まれ、業を煮やしてオーラバーストを撃つと後出しでオッサンも放ってきて且つ俺のオーラバーストを飲み込みそのまま俺にダメージを与えた。しかも俺の剣はボロボロなのにオッサンの剣はびくともしていない。剣の差もあるんだろうが、放つ際凄い繊細に放っているんだろう。何から何までオッサンに敵うものはなかった。だが――
「ほらほら何寝てるんだい少年? 視線がまだまだ素直すぎる! 次行くよ~」
「おう! 次こそ一本取ってやる!」
「お、まだまだ行けそうか。う~ん若いね! そのひたむきさは良し! じゃあ行くよ!」
オッサンから学ぶものが多く、何よりオッサンの教え方がとても上手く、負け続けているにもかかわらず、楽しい充実した時間を過ごした。
「良いかい少年、少年の心はひん曲がっているのに剣は真っ直ぐすぎる! ほら! 剣は手だけで振るんじゃないって言ってるだろ」
「わかんねえよ!」
ある時はひたすら剣を打ち合い、
「オッサン! 引いてるぞ!」
「おおでかいなこれは! 少年も手伝ってくれ!」
「おう! お、釣れたな!」
「これは塩焼きが美味いんだよな~」
「……俺にもくれよ」
「ふふん? 食べたいなら少年も釣らないと! 最低一匹釣れたら考えてやるよ~」
「畜生絶対釣ってやるからな! ……ところで釣りは剣にどう活かすんだ?」
「え!? そうだねチョット待って。今考えるから」
「おい」
ある時は意味もなく釣り勝負をし、
「少年は好きな子とかいないの?」
「修学旅行の夜かよ、いねえよ。オッサンは? 結婚とかしてんの?」
「しゅうがく? ああ結婚ねえ……昔は考えていたこともあったけど今更だね。そんなことより少年の好きなタイプって何か教えてよ!」
「んなのきいてどうすんだよ。そうだな、とりあえずめんどくさくなければそれでいいや」
「あっはっは! 僕と一緒!」
ある時は恋バナをした。
一週間ほどそうして過ごしていたがとうとう別れの時が近づいてきた。
「楽しい指導をありがとうオッサン。結局最後まで一本取れなかったな」
「ふふ、少年ならもう少しで取れるさ! 今回の特訓で技術は少しはマシになったが、今一番少年に足りないのは信頼できる武器、だろうな。次会うときまでに命を預けられる武器に出会えると良いな!」
オッサンはじゃあなーと手を振りながら出発した。俺は頭を下げてオッサンを見送った。
「次会うときまでは、か。そうだな……次にあったらその時は」
きっと殺し合いになるだろうそんな予感があった。だがその時までは心の中だけでいい、師匠と呼ばせてくれ。
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