62.明日雨が降ったら
※ 視点、人称:新庄智也、一人称
※ 時間軸:本編「親友の恋」の後。
雨の日のデートってどうしてる?
大学の学食で顔を合わせた僕達の、今日の話題がこれだった。
最近雨がよく降るねって話からこうなった。
「こっちは、元々インドアが多いからあんまり困らないかな。カラオケとかボーリングとか映画とか、お部屋でのんびりもいいよね」
とは紗由奈の話。
僕はあんまり体動かすの得意じゃないから、部屋でのんびりが一番好きなんだけど。
「こっちもカラオケとかボーリングはおんなじかなー。でもまだお互いの家に行ったことないね」
水瀬さんが松本を見て、うんうんうなずきあってる。
松本は親と住んでるって聞いてるけど、水瀬さんはどうだっけ? 家族いたら行き来しにくいよな。
「映画はジャンルによるよね」
「アクション好きだけど、他はあんありだから」
水瀬さんが見たい映画がある時は映画にも行くのか。そこは紗由奈も似たようなものだな。
「ところでさ、来週の週末、みんなで遊びに行かないか?」
松本が言い出した。大阪の遊園地の割引券が手に入ったから行こう、ということらしい。
遊園地か。子供の頃行ったっきりかな。家族も、今までの(数少ない)友達も、遊園地に行きたいって言わない人達だったから。
だから、ちょっとワクワクしてたんだけど。
土曜日になって、明日の天気予報は雨。降水確率八十パーセント。
どうしてだ……。楽しみにしてたのに。
『明日、雨予報だね』
『どうしよう?』
『遊園地だし雨降ったら乗り物とか止まっちゃいそうだね』
『止まってなくても乗るのはちょっと(笑)』
『確かにwww』
そんなやり取りをしてると、なおさら残念感がわいてくる。
『明日雨が降ったら(多分降るけど)どうしようか?』
『屋内で遊べるところいく?』
『カラオケ?』
『それもいいけど、スポーツしない?』
提案してきたのは水瀬さんだ。
確かに、カラオケは前も行ったしなー、という意見が続く。
僕は、……どっちかと言うとスポーツは苦手なんだけど。
『ともくんは大丈夫?』
あぁ、紗由奈が気遣ってくれた。マジ神! 女神!
運動はちょっと、って返信しようか、って文章書いてると。
『新庄さん、運動ダメだっけ?』
『あー、そうだったか。無理強いできないな』
……なんだろ。
水瀬さんや松本にまで言われると逆に盛り上がってるのを僕のために変えてもらうのが申し訳なくなってくるから人の心理って不思議だ。
『軽くなら大丈夫』
ああぁ、僕のバカ。せっかく断れるチャンスを。
でも三人に気を使わせるのもなんだし。
奇跡でも起きて、明日雨降らないでほしいな。曇っててもいいから。
僕の願いを天は聞き入れてくれなかった。
朝から、というより夜中からしっかり雨。がっつり雨。
待ち合わせはスポーツアミューズメント施設の入口付近ということになった。
運動しやすい服装に着替えながら、ため息ひとつ。
これならまだカラオケの方がよかったなぁ。
スポーツするにしてもボーリングだけとか。あれなら二ゲームほどやって終わりだから、ゆるゆる転がしておけばいいし。
それもこれも、しっかり断らなかった自分自身のせいなんだけど。
ちょっと憂鬱になりながら待ち合わせ場所に向かった。
三分前に到着したら、もうみんないた。
「やっほー、新庄さーん」
水瀬さんが手を振ってる。めっちゃ元気そう。山でもないのに「やっほー」はもう慣れたけど、まだちょっとだけ離れてるのに名前呼ばれて手を振られると少し恥ずかしい。
料金払って中に入って、さて何をする? と言いながらぐるりと施設を見て回る。
ゲームコーナー、ビリヤード、ダーツ、ローラースケート、ミニボーリング、卓球、その他いろいろ、思ってたよりもたくさんある。屋外にもテニスやバスケットなんかもあるけど今日は雨だからやってないみたいだ。
「やってみたいのあった?」
「ローラースケートかな」
「俺、ビリヤードやってみたい」
「あ、いいねぇ。やったことないんだよ」
「わたしも」
「卓球もいいよね」
三人は盛り上がってる。
体動かすのは得意じゃない。けど、こういう雰囲気は嫌いじゃない。
「利用時間三時間だし、順番決めて三十分ずつぐらいでやってこうよ」
僕が提案すると、みんな驚いた顔をした。
「おー、ともくん積極的ー」
紗由奈が嬉しそうにしてる。
うん、悪くない。
「よーし、順番決めるぞ」
みんなでワイワイやって、卓球、ローラースケート、ビリヤードの順番になった。待ち時間は各自自由に、って感じだ。
卓球では松本とのへっぽこ真剣勝負でくしくも敗れたけど、紗由奈と水瀬さんの闘気オーラ大放出の超高速スマッシュ合戦で、面白いものを見せてもらった。周りにいる人達も観客と化していた。
ローラースケートは、紗由奈が手を繋いでくれてゆっくりと滑った。手のあったかさ、密着する体。これは、……いい!
ビリヤードの待ち時間はゲームコーナーでペアマッチをして盛り上がった。
なぜか負けた方がジュースをおごることになっている。
「よーし、僅差で俺らの勝ちー」
「まだまだ、ビリヤードで決着だ。みんな初めてだからどうなるか判らないぞ」
最終決戦ビリヤード。ナインボールだから、途中がどうあれ九番の球を落としたチームが勝ちだ。
最初はキューの持ち方や球の突き方がおぼつかなかったけど、周りの人の見よう見まねで、何回かやってると慣れてきた感じだ。
僕らはただ真っ直ぐ狙いの球に当てるのが精一杯だったけど、紗由奈は当てる角度とかも計算し始めた。さすが頭いい!
けど、やっぱり初心者だから、狙った通りに球が転がらないのが現状で。
台の周りで歓喜と落胆の声が入り乱れる。
一度も九番をポケットに入れられないまま、利用時間の終わりが迫ってた。
「次の赤城さんが終わったら片付け始めよう」
つまりこれで紗由奈が入れたら僕らの勝ち、入れられなければ松本達の勝ちだ。
球の位置は、ポケットのほぼ正面に九番があって、手前三十センチに手球がある。コースとしてはいい感じだけど、突く角度と強さによっては手球がポケットに入ってファールになってしまう。
角度を変えながら真剣に珠を睨みつけるように見つめる彼女はすごくかっこいい。口を軽く引き結んで球を刮目する彼女は、獲物を狙う猫みたいだ。
彼女がキューを引く。緊張の一瞬の後、手球の下の方を突いた。
手球は勢いよく九番に命中して、見事、九番がポケットに吸い込まれた。手球は九番に当たるとその場にぴたりと止まった。
「紗由奈、すごっ」
「やっぱサユちゃん器用だよね」
「赤城さんカッケー」
僕ら三人、勝負に負けた松本達さえも、紗由奈の華麗なショットに大はしゃぎだった。
四人でご飯食べて、帰り道。
「ともくん今日たのしかった?」
「うん、めっちゃ」
「よかったー。ともくん運動苦手な方だって言ってたから、もしかしてまた無理してあわせてくれてるんじゃないかってちょっと心配だったんだよ」
本当は、最初の方、ちょっと無理してあわせてた。
けど紗由奈達の楽しそうな顔みてたら、いつの間にか僕自身も楽しくなってた。
「そんなことないよ。また行こう」
まだ傘にはうっとうしいぐらい雨粒が降り注いでくるけど、なんだか心は晴れやかだった。
たまにはスポーツもいいよなー。
って思ってたのは帰り道までだった。
部屋に帰ったぐらいから体のだるさを感じ始めて、次の日、起きたら全身筋肉痛で動くのがつらい!
ひどい痛みとだるさが三日は続いた。
結論。
楽しいからって自分の運動能力越えてはしゃいじゃ、ダメ、絶対!
(了)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます