35.それもまた事実
※ 視点、人称:赤城紗由奈、一人称
※ 時間軸:本編「浮気? ハニトラ?」の後。
ほんとびっくりした。
まさかともくんに浮気を疑われるなんて。
疑われたのも驚きだけど、わたしに真相を尋ねるともくんの、怒ってるけど悲しそうな顔がすごく……、こんなこと本人には言えないけど、きゅんとした。
すごく想われてるんだなって実感した。
嬉しかったけど、自分の気持ちにちょっと自信がなくなっちゃった。
わたし、ともくんのこと、彼がわたしを想ってくれてるのにふさわしいぐらいに好きなのかな、って。
ともくんのことは好き。これは自信もって言える。
彼は普段は自信なさげで、人とのコミュニケーションちょっと苦手みたいで奥手なんだけど、言う時にはびしっと言うところがいい。何より優しい。一緒にいて安らぐってすっごくポイント高いと思うんだよね。
でもそれでいいのかなー、って。
わたしが安らぐためにそばにいてほしいって、都合よすぎじゃない?
こんな気持ちのまま、カノジョでいていいのかなぁ?
なんてことをぐるぐるっと一人で考えて、ため息。
誰かに相談しようかな。
相談するとして、誰に?
わたしの周りでカレシいるのって、……いない!
なにこのおひとり様率の高さっ。
わたしもちょっと前までそうだったんだけど。
そう思うとともくんには改めて感謝だ。トラストスタッフにバイトに行き始めてからは特に諜報のことばっかり考えてたわたしがまさかカレシと楽しい大学生活を送れるなんて思わなかった。
まだ付き合い始めて二か月も経ってないのに、ともくんの存在感大きい。
全然意識してなかったのになー。
なんて考えてたら、スマフォから着信音だ。
神奈ちゃんからメッセージだ。
『次の休みヒマー? 買い物行きたいから付き合ってほしいなー』
続いてお願いスタンプも送信してきた。
よし、ここは神奈ちゃんに相談だ。
日曜日。神奈ちゃんのお買い物についてった。
神奈ちゃんはパンツを一本、わたしもスカート買った。白のフレアスカート。デート用だ。
わたしもどっちかというとパンツ派なんだけど。動きやすいし。
でもともくんは、多分スカートの方が好きなんじゃないかなーとか勝手に思ってる。
「サユちゃんのそれってデート用?」
喫茶店でお茶タイム。神奈ちゃんが尋ねてきた。さすがわが友、鋭いな。
「うん。ともくんこういうの好きかなーって」
「相手の好みに合わせるなんて、サユちゃんベタぼれだね。まさかそんなに新庄さんのことを好きになってるなんて思わなかったよ」
「……ベタぼれ、なのかなぁ」
自分の恋愛には興味なさそうな神奈ちゃんだけど、わりと人のことは見てると思うんだよね。そんな彼女がそういうなら、そうなのかもしれない。
「なんだぁ? もう倦怠期ってヤツ?」
神奈ちゃんが茶化して笑う。けどわたしの顔を見て笑顔を引っ込めた。
「何か悩み?」
聞かれたのをきっかけに、ここ数日ぐるぐる考えてたことを打ち明けた。
「って感じで、自分の気持ちがともくんに釣り合ってるのかなーって」
「それって釣り合わないといけないものなの?」
神奈ちゃんが不思議そうに尋ねてきた。
「思われるばっかりって、なんだか申し訳なくない?」
「そんなもの? よく判んないけど」
恋愛経験がなければ判らないか。恋愛してても判んないもんね。
「別に申し訳なく思うことはないんじゃないかなーってわたしは思うよ」
「そうかな……」
「好きでもないのに打算で付き合ってるとか、逆に思いが強すぎてストーカーになっちゃったら、そりゃマズいでしょって感じだけど、サユちゃん新庄さんのこと好きなんでしょ?」
だったらいいじゃん、と神奈ちゃんは締めくくった。
……そっか、いいのか。
「好きな人できたらそんなことにも悩んじゃうんだねー。お互い好きで付き合ってるから全然問題ないって思ってたよ」
あっけらかんと言われて、そうだよねーと相槌を打つ。
まさか自分がこんなことで悩むとは思わなかった。
「でもサユちゃん、十分新庄さんのこと想ってると思うよ。そんなに好きじゃなかったら悩まないんじゃないかな」
えっ。
……なるほど。そっか。
これでいいのかなって考えるのは、それだけ相手のことが好きってこと。
うわぁ。一つ真実を見たって感じ?
なんか、ちょっと嬉しく感じて、さらになるほどなって納得した。
ありがとう神奈ちゃん! 元気出てきた。
よーし、神奈ちゃんに恋の悩みができたら、親身になって相談にのろう。
お兄ちゃん超絶ラブだから、しばらくは恩を返せないと思うけど。
(了)
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