24.中身は何
次の日、言われた時間に「トラストスタッフ」大阪支社を訪れた。
オフィス街の中に当たり前のように看板を見つけて、なんだか妙な気持になる。いろいろな会社に派遣社員を送るこの会社の内部に諜報部があるなんて、いったいここの街にいる人のどれだけが知っているのか。同じ会社に勤めていても知らない人がほとんどだと聞いた。なのに僕は知っている。ちょっとした優越感と、背徳感のようなものを感じる。
受付で名前を言うと、本当に社長室に案内された。
黒崎さんは今日もスーツ姿で、会社のサイトの社長あいさつのページに載っていた愛想笑いを浮かべて僕を迎え入れた。
社長室っていってもそんなに広くないんだなぁ、とか考えてる間に黒崎さんは応接用のソファに座って、目の前のテーブルにきんちゃく袋を置いた。
何だあれ? 中身はなんだ?
「昼食の時間が限られててな。悪いが食事しながらの話にさせてくれ」
言いながら僕の同意を待たずに袋から黒色の二段重ねの弁当箱を取り出した。
ぱかっとふたを開けて、黒崎さんは硬直した。
ちょうどそのタイミングでお茶を持ってきてくれていた秘書さんらしき女性が、後ろでこらえきれずに噴き出した。
一体何が?
弁当箱の中を見ると、白ご飯の上にピンクのハートマークがでっかく描かれていて、周りにLOVEの文字を海苔で描いてある。ピンクのあれは多分桜そぼろだな。
おかずの箱のふたの上にメモ用紙を見つけて黙読した黒崎さんが「やられた」と小さくつぶやいてる。彼の顔は困っているようで、すごく穏やかな笑みを浮かべているようにも見えた。
「で、仕事の話って? 諜報のことを聞きたいのか?」
黒崎さんは何事もなかったかのようにおかずのふたも開けて、結構な勢いで食べ始めた。
「はい、あの……、僕は諜報員には向いてないから、諜報員をサポートできるような何かをしたいなと考えまして」
「それで諜報のことを聞きたい、と。どうして急に諜報員の手助けがしたいなんて思うようになったんだ?」
口の中の食べ物を飲み込んで黒崎さんは目だけを僕に向けた。
紗由奈と離れたくないから。手助けがしたいから。
こんなことを言ったら怒られそうだ。
でもごまかしたって、この人はきっと見破るだろう。
「大切な人と一緒にいるために、手助けがしたいんです」
あっという間に弁当を食べ終えた黒崎さんは、ふっと笑った。
「正直だな。それに自己解析は正確だ。君は諜報員には向いていない」
「嘘をついたって見破られるでしょう?」
「そうだな。大体予想はついていたからな。状況分析も正確となると、諜報員には向かないが協力者としては期待できそうだな」
にまりと笑う黒崎さん。諜報組織のトップらしい冷徹ぶった顔。
けどご飯粒が口元についていて、かっこよさ半減だ。
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