52.偶然という名の必然
松本は無意識的に水瀬さんを想ってるっぽい。
水瀬さんは……、紗由奈が言うには他の男の人よりは距離近いかな、ぐらいか。
「わたしの勘だけど、あの二人は付き合ったらうまくいくと思うんだよね」
紗由奈が僕の部屋に来ての、まったりタイム。彼女が松本達の関係に言及した。
最近なんか彼女はよく僕の部屋に来る。
居心地いいんだって。
すっごい嬉しい。
「あの二人が付き合ったらダブルデートとかできて楽しそう」
「……今すでに、その状態に近いけどね」
「まぁね。でも正式に? 付き合ってるのとそうじゃないのとでは意識が違うっていうか」
そうなの?
それはともかく、あの二人には僕らが付き合うまでいろいろと世話になったしなぁ。
なんて思ってると。
「よし、仕掛けるか」
彼女が何か考えついたみたいだ。
「松本くんと神奈ちゃんをくっつけよう作戦。題して『偶然という名の必然! くっつきそうな二人をカラオケボックスに二人っきりにしてみた』って感じで」
「何そのラノベタイトルみたいな長いの」
「流行りでしょ?」
紗由奈がにこにこしてる。うん、かわいいからOK。
「――で、作戦の内容は?」
タイトルからして想像できるけどね。
「四人でカラオケに行って、わたし達二人が先に出るの」
やっぱりね。
問題は退室の仕方だと思うけど……。
あんまりあからさまだと松本はこっちの意図に気づきそうだし、水瀬さんだっていい気分しないだろう。
そう言うと、紗由奈は「それじゃ、時間差で出よう」と解決策を出してきた。
部屋は三時間ぐらい借りるとして、一時間半ぐらい経った頃にまず僕が「バイト先から今日入ってほしいって連絡が来た」と部屋を出る。
それから三十分ぐらいで紗由奈も「家族から帰ってきてほしいって言われちゃった」みたいな流れでいけば、あまり不自然ではないかなと言う。
「ついでに話しやすい雰囲気にしておこうかな」
「というと?」
「ともくんが出て行った後に、ともくんのことをちょっと相談する感じで恋愛話に発展させてくる。もしかしたらカラオケ終わった後に二人でお茶しながら話そうって感じになるかもしれないじゃない?」
なるほど。けど僕のことを相談って何話されるんだろう。
「何話したかはちゃぁんと報告するから」
余裕あるなぁ。もうどんな話をするかも考えてるのかな。
ここは彼女の任せておこう。
作戦当日。
午後二時に四人で集まってカラオケボックスに向かった。
ちょっと待ってから入室。いつものように思い思い好きな歌を歌った。
僕はあまりカラオケは好きじゃなかったけれど、カラオケ好きな紗由奈に感化されてレパートリーを増やしている最中だ。
大きな声で歌うって、結構気持ちいいんだな。
このメンバーだと気兼ねなくどんな歌でも歌えるのがまたいい。
紗由奈と僕でデュエットすると、松本達も乗っかってきた。
二人で楽しそうに歌ってるの、いい雰囲気じゃないか。
さてそろそろ一時間半経ったな。
電話がかかってきたふりをして部屋の外に出て、一分ほどで戻る。
「ごめん、バイトいかないといけなくなった」
ちょうど紗由奈が歌ってる時だったから切り出しやすい。我ながらいいタイミングだ。まさに偶然という名の必然作戦。
「えー、残念!」
みんなに惜しまれながらカラオケ代を置いて部屋を出た。
あとはアパートに帰って紗由奈が来るのを待つだけだ。
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