36.そういうことは早く言え
紗由奈と浮気していると思っていた人は、紗由奈が働いてる会社の社長。
しかも自ら内偵してた。
信憑性高いけど、にわかに信じられない感じ。
「俺が社長なのを疑うならうちの会社のサイト見てみろ」
言われて、トラストスタッフのサイトを検索する。
社長の紹介ページを見た。確かに同一人物だけど……。
どう見ても目の前のすごく不機嫌そうで高慢そうな男と、サイトの写真のにこやかな好青年があまりにもかけ離れてて別人みたいだ。
「なんだよその顔」
「あ、ともくんの考えてること判る気がする。外面よすぎよね社長」
「うるさいな。好きで愛想笑いしてると思うなよ」
「はい、思えません」
「何気に俺を落としてるだろ」
仲いいな。掛け合い漫才の息ぴったりだ。
「ま、今回のことは数日内にあのホテルが摘発されるだろうから、それをもって仕事だったという証明、ってことでいいか?」
黒崎さんが俺を見て、面倒くさそうにため息をついた。
「はい、それでいいです」
こんな自信満々に言われちゃな。
でも一つ気になることがある。
「どうして社長さん自らが偵察に行ったんですか? 相手が貴方である必要は?」
「ホテルの用心棒に高レベルの極めし者がいるという話だからな。もしもバレた時に極めし者が彼女一人では対応しきれない」
ってことは黒崎さんも極めし者?
「社長すごいんだよ。わたしなんか数秒でKOされちゃうくらい。いつか追いつきたいな」
チンピラだか暴力団員だか、大の大人数人を簡単にのしてしまう赤城さんが、数秒でKO? すさまじいな。
「極めし者としての腕も大事だが諜報活動の熟練に力を入れてくれ。なんで俺が浮気の誤解を解くために正体明かすような状況にならなきゃいけないんだ。バイトで諜報員やってるの彼氏が知ってるんだから事前に根回ししておけばよかったんだ。トラブルになりそうなことは早く明かしておけよ」
「捜査の内容に関しては話しちゃ駄目だとおっしゃったじゃないですか」
「それも大事だがトラブルを避ける方がもっと大事だといつも言っているだろう。今回は事前に話しておくパターンだろうが。こんな騒ぎになってるんだからな」
俺があの時彼の存在に気づいてなかったら大変だっただろう、と黒崎さんはふんと鼻を鳴らした。
僕が植え込みのところにいたのを見つけられてたみたいだ。
「とにかく、俺は彼女とは一切そういった関係はない。そもそも眼中にない。理解してくれたか?」
黒崎さんがまた大きく息をついて僕を見る。
「それはお互い様です。社長が奥さん一筋なように、わたしにはともくんだけです」
「俺はちゃんと妻には根回ししてあるからな」
ぼそりとやる黒崎さんの表情が幾分か柔らかくなった。これが感情を隠してる上での変化だとすると、相当奥さんのこと好きなのか。
今までの冷たいイメージより好感が持てる。
「ここで喧嘩しないでください。あなた達が社長さんとバイトって関係以上のものがないのは信じますから」
僕が言うと、紗由奈は大きく長い溜息をついた。
「よかったぁ。潜入捜査よりともくんに疑われることの方がつらかったよ」
なんかまたすごくかわいいこと言い出したよこのカノジョは。
顔がにやけるのが判った。
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