71.これは誰

 その日のバイトは早く帰らせてもらった。お客さんも少な目だったし、何より僕の顔色がすごく悪いらしくて、接客業でそれはまずいって店長が判断した。


 アパートに帰って時計を見たら、九時だった。


 あの写真を取り出してみる。

 撮ったのが午後八時だとすると、この時間に紗由奈はこの男と……。


 写真を持つ手が震える。破りたくなる。

 でも確かめないまま決めつけるのはよくない。

 確かめなきゃ。


 けど、直接聞くのは、怖い。


『三日の夜ってさ、仕事だったよね』


 メッセージの文章はうったけど、送信する勇気がなかなか湧かない。

 このまま何も聞かないで、楽しく過ごせればいいじゃないか?

 そう思わなくもない。


 けどそれって、幸せなのかな。


 あと、竹中のことも気になる。

 きっとあいつ、赤城さんとのことでまた絡んでくるに違いない。

 竹中のニヤついた、勝ち誇った顔にきっちり反論できないのも悔しい。


 僕は送信アイコンを、タップした。

 返事はあっさり返ってきた。


『そうだよー』


 この後、どう続けよう。

 いきなり「誰といたの?」ってのは不自然だな。


『今回はどんな仕事だったんだ?』


 よしこれなら次につなげられる。


『まだ終わってないけどね。内定調査だよ』


 ……本当かな。


『実は、三日の夜に紗由奈を見たって人がいてさ。だったら人違いかな』


 これでどんな反応が返ってくるんだろう。

 汗ばむてのひらを服にこすりつけてから、送信アイコンをタップ。


『へー、どこで?』


 そうなるよな……。


 写真を送って「この人誰?」って聞けたらすっきりするのか。

 それともどうしようもなく落ち込むことになるのか。


『詳しいこと忘れちゃった(笑)』


 あぁ、僕のヘタレ。




 自分から確かめるのをあきらめたくせに、悶々とする。

 直接確かめる勇気もないくせに。


 このままじゃいやだけど、問いただしたくない。

 そんな中で一つ考えついた妥協案がある。


 同じ時間、同じ場所で一週間「張り込み」をする。

 それで紗由奈が男と来なかったらいい。

 来たら……、その時はあきらめよう。

 紗由奈のこと大好きだけど、大人の男と張り合うなんて無理。


 バイト先には一週間、お休みをもらうことにする。

 仕事先にまで迷惑かけちゃうことに気が引ける。松本に協力を頼むことも考えた。

 けど、あいつはもしも紗由奈を見かけても僕らに気を使って見なかったことにするかもしれない。やっぱりここは自分でやるしかないんだ。

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