浮気? ハニトラ?

41.在るべきところ

 大学三年の夏休みは、今までにない幸せであふれていた。


 カノジョいない歴イコール年齢だった僕に、初めてカノジョができた。それも、とてもかわいいカノジョが。

 ……正義感がそれなりに強くてスパイに興味津々の、ちょっと面白い趣味の人でもあるけど。


 とにかく、僕らは時間があればデートをして、メッセージのやり取りもして、愛情を深め合った、と思う。付き合い始める前は僕が一方的に好きだったこともあって、実は彼女はそんなに僕のことを好きなんじゃないかな、なんて心配したこともあったけれど(もちろんこれはカノジョにはナイショだ)、今ではそんな不安も消えてきた。


 彼女のそばこそが今僕がいるべき場所なんて、うぬぼれだけど、そう思ってもいいよね。

 それぐらい幸せを感じてる。


 だけど。


 バイト先に、竹中が来た。

 久しぶりに直接会うけど、やっぱこいつの自信満々で人を傷つけるような雰囲気やしぐさは気に入らない。


「いらっしゃいませ」

「久しぶりだなー、赤城さんと仲良くやってるか?」

「ご注文が決まりましたら、卓上のベルを押してお呼びください」

「無視かよ」

「申し訳ございませんお客様、仕事中ですので失礼します」


 何をしに来たか知らないけど、相手しないに限る。

 でも竹中のテーブルから呼び出しがあって、手が空いているのは僕しかいなかったから、しかたなく注文を取りに行った。


「エスプレッソな」

「かしこまりました」

「赤城さんさー、浮気してるぞ。ってかあっちの男が本命だったりして」


 ……え?

 立ち去ろうとした僕は横顔を竹中の言葉に殴られた。


「やっぱ気づいてないな。おめでたいなーおまえ」


 竹中がテーブルに何か置いた。写真みたいだ。

 見たくないし、仕事中だから「失礼します」とだけ言って席を離れた。

 よくそんな挨拶ができたと自分をほめたいぐらいショックで、脚はガクガクだ。


 他の店員さんが僕の様子がおかしいのに気づいてくれて竹中への接客を変わってくれた。

 でも会計を済ませて竹中が出てった後にテーブルを片付けに行くと、写真は置いてったみたいだ。


 そこには、親し気に腕を組んで歩く赤城さんと、知らない男。

 男の方は三十代から四十代ぐらい? 夜のはずなのに明るいネオンに照らされた二人の顔がはっきりと写ってる。


 ここ、見覚えある。

 水瀬さんとエントランスにだけ入ったラブホのそばだ。


 写真の裏に、ご丁寧に撮影日時と場所が書き込まれてる。

 八月三日の夜八時頃か。

 紗由奈が仕事って言ってた日だ。


 本当に浮気なのか? 紗由奈にとって、僕のそばはあるべき場所じゃなかったの?

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