54.やっと気付いた

 山下さん襲来から一週間ぐらいは、まさかまた何かしてこないかってビクビクしてた。


 けど彼女から改めてお詫びのメールが届いて、連絡先を消すと告げられて、次の日にはメッセージアプリのつながりがなくなってるのを確認して、ほっとしたと同時に心に違和感というか変な感覚があった。


 久しぶりに会った松本に一連の出来事と心境を伝えると、そりゃ単に疲れたんだろって笑われた。


「子供の頃の覚えてないような口約束で結婚迫られて、ハニートラップまで仕掛けられて、もしかしてまたなにかやってこないかってビビッて……、そりゃ精神的ダメージはデカいだろう」


 松本は心底同情してるみたいな顔だ。


「連絡先消してもらってもまだ、何かある可能性を考えてしまうぐらい参ってるってことだな」


 そっか、僕、疲れてるのか。言われてやっと気づいたというか自覚した。

 確かに衝撃的な体験だったけどそこまで堪えてるとは思わなかった。


「でもそれっておまえだけじゃないからな。むしろ赤城さんの方が気疲れしてるんじゃないかな。気を付けてあげた方がいいと思う」


 紗由奈が? 嬉々として山下さんを追い返してたように見えるけど。


「自分に置き換えてみたら実感できるだろ」


 紗由奈に言い寄る男がいて、ホテルに連れ込まれたら。


「うわっ! 理性保てる自信ない」

「だろ?」

「でも相手に直接ケンカ吹っ掛ける真似は……、多分できない」

「だよな。赤城さんはすごいよ」

「ありがとう松本。自分のことで目いっぱいで紗由奈の気持ちとか考えられてなかった」


 親友はにかっと笑って「今度おごれよな」と軽口をたたいた。


 次の紗由奈とのデートは、ちょっと奮発しよう。感謝の気持ちを改めて伝えないと。


 そんなふうに考えてた僕は、まさか松本の言う「逆の立場」に近いものを体験するとは思っていなかった。



(幼馴染襲来 了)

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