63.一生勝てない

 あれからどうなったか、最初のうちは紗由奈がメッセージで状況を報告してくれていた。


 まず彼女は正規の宿泊料金を支払ってビジホに一泊することにした。

 山下さんの部屋に「目が覚めたら連絡ください」とメモを残してきたが朝まで連絡はなかった。


『結構酔ってたのは本当だし、そのまま寝ちゃった感じかな』


 そうかもしれないね。


『さっきメッセージ入った。今から話してくるね』


 そう送られてきたのが午前九時。

 現在正午近くだがまだ紗由奈からの連絡がこない。


 どうなってるんだ? 修羅場ってるのか? それにしても遅くないか?

 もしかして紗由奈に何かあったのか?

 ……実は山下さんが紗由奈を凌駕する極めし者でした、なんてオチでもない限りそれはないか。


 じゃあ逆に紗由奈が山下さんに危害を加えて警察に捕まったとかっ。

 いやいやそれもないと信じたい。

 でも紗由奈、変に正義感強いところあるし。

 女の武器を使って人の彼氏を奪おうなんて不届き千万! とか、やっちゃってないか?


 なんてグルグル考えて、ついでに腹も空腹でぐるぐる鳴ったところで、紗由奈から電話だ。


『終わったよー。山下さん、特急に乗るとこまで見送ってきた』


 よかったぁ。

 長い溜息が漏れた。


『もしかして、わたしが山下さんに鉄拳制裁とかしてるのかって想像してた?』


 ぶふぉっ!


『図星かぃ!』

 すかさずつっこまれた。


『でもあれこれ心配したよねきっと。ごめんね連絡が遅くなって』

 確信めいた声と謝罪。


 なんてこの人はそこまで僕のこと判るんだ。

 いろいろと、彼女には一生勝てないだろうなぁ。


『詳しく報告するから、ともくんのお部屋に行っていい?』

「えっ? ここにっ?」

『外だと誰に聞かれるか判らないし』


 そりゃそうだけど。


『あれれー? なにか部屋に見られちゃマズいものでもあるのかなー?』


 某少年探偵みたいなわざとらし口調やめてくれ。


「そんなのないよ。それじゃ待ってるから」


 電話切って、僕は速攻片付けに突入した。

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