43.あの人だけ
ちょっとイタい人に成長してやってきた幼馴染のことは紗由奈には話しておいた。
変に黙っててバレた時にトラブルになるのは困るから。
僕としてはやましいところは一つもないから気にしてないんだけど、些細なことが自分の知らないところで変なふうに影響してしまうのは、前の竹中の偽情報で痛感している。
紗由奈は、僕には幼馴染に対する恋愛感情はないことは理解してくれたけれど、なんか恐ろしいことを言い出した。
「また来そうだよねその人」
「結婚どころか付き合う気がないことは判ってくれたと思うんだけど……」
「考えてみてよ。自分は十年以上もすっかり相手と結婚する気でいて、その相手が自分の知らない土地で新しいパートナー見つけてたって知ったんだよ? わたしならむしろここからが本番だと思うんだけど」
ここからとか、こわっ!
でも、うん、自分に置き換えたらその気持ちは判る気がする。
今、紗由奈がどこか遠くへ行って連絡もつかないままで、探して迎えに行ったら「わたし、彼氏いるのよ。あなたとは付き合えないわ」とか言われたら……。
嫌だ! 断じて嫌だ!
「納得したって顔ね。幼い頃の口約束が有効だって考えてるのは、山下さんだっけ? その人だけの特別な感性ってわけじゃないと思うんだよね」
さすがエージェント。鋭く顔色読むなぁ。
でもちょっと違う。
「自分に置き換えたら理解はできるけど、納得はできないかな」
「というと?」
「僕と紗由奈は、その、男女として付き合ってるだろ?」
ここを口にするのにちょっとテレが入った。紗由奈も「うん」って言いながらはにかんでる様子だ。
やっぱかわいい!
いや今はそうじゃなくて。
「でも山下さんとは付き合ってない。仲のいいグループで一緒だったけど、二人で遊びに行ったりとかしてないし、ましてや付き合うの「つ」の字も話題に出なかったよ」
言いながら、なんか、自分の過去が清廉潔白だって必死にアピールしているっぽくてなんかちょっと違う感がわいてきた。
「つまり山下さんって人がすっごい思い込み激しいタイプだってことだね。子供の頃の一言でそこまでともくんのこと想ってられるなんて、すごいわ」
紗由奈、ちょっと呆れてる? そんな厄介な男と付き合いたくなくなったとか?
一気に不安が押し寄せてきた。
「これは、わたしも負けてられないわね」
えっ?
「ともくんが心変わりしたとかならともかく、勘違いで迫ってくる女の子に、ともくん取られたらしゃれにならないってことよ」
「そっ、そんなことっ、あるわけない! 僕が好きなのは紗由奈だけっ」
思わず声が上ずった。
紗由奈が、にぃっこり笑った。
「ありがとっ。わたしもともくんだけだよ」
ぐわぁっ! 幸せすぎて死にそうっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます