55.夜明け
竹中が喫茶店を出ていってから、しばらく僕らは作戦成功に盛り上がった。
「これでしばらくおとなしくしてるだろう。もしもまた何かしたら、あいつのことは見限るしかないな」
松本がうなってる。
そういえば元は松本の友達ってつながりだったよな。
「証拠まで握られてたらさすがにもう何もしないよ、きっと」
赤城さんが言う。
僕もそう思うよ。イヤなヤツだけどそこまで馬鹿じゃないと思う。松本の友達だしな。
「さぁってこれからどうする? 犯人特定のお祝いでもする?」
水瀬さんが提案する。
それもいいかもな、と思ったけど。
「あ、わたしちょっと新庄くんにお話があるんだ」
えっ?
赤城さんを見るけど、微笑を浮かべてる彼女の顔からは感情が読み取れない。
「そっか、それじゃお邪魔虫は退散しますかー」
「そうだなー。ごゆっくりー」
水瀬さんと松本が意味ありげに笑って席を立つ。
おい、君ら、赤城さんの話知ってるのか?
内心慌てる僕を放って、松本達はニコニコしながら喫茶店を出て行った。
残った二人、改めてテーブルをはさんで向かいに座る。
「それで、話って?」
「うん、ちゃんと答えをしないとなーって」
ちょっ、まっ? いきなりだっ。
えっ、なにっ? 変なことに巻き込まれたからそんな火種とは付き合えないって結論か?
心臓がバクバクする。
僕の内心を見透かしたように赤城さんが笑う。
「正直言ってね、誰かに好きって言ってもらえるって思ってなかったから嬉しいより驚いたんだ」
「どうして? 実際モテてるよ?」
竹中が赤城さんを好きなのは本当なんだろうし。
「だって子供ならともかく、この歳で諜報員にあこがれてるんだよ。わたしは好きなことに向かってるから変なんて思わないけど、他の人はそうじゃないでしょ普通」
そういう自覚はあったんだ。
けど別に、他の人に迷惑な好みでもないし。巻き込んでるわけでもないしむしろ巻き込まないように気を使ってるよね。
「新庄くんはそういう偏見とかなさそうだけど、今度は逆にわたしとかかわったら迷惑かなって思ってた」
「そんなことないのに。ってかこっちの方がトラブルに巻き込んだ形になっちゃったよ」
「今回のことは新庄くんこそ被害者じゃない。……で、さっきの対応含めて、新庄くんの人柄を見て、いい人だなって思ったよ」
それって……。
「わたしのバイトのことは、できるだけ巻き込まないようにするから。よかったら、その、……よろしくお願いします」
赤城さんはぺこりと頭をさげた。
う、うわっ、うわわわわっ。
かぁっと全身が熱くなる。
「こ、こちらこそ、フツツカモノですがヨロシクお願いします!」
思わず力の入った声に、赤城さんはぶっと噴き出した。
変なウワサ流されて暗くなった感情に、強烈な朝日が差し込んできた感じだ。
すごく心地いい光だった。
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