47.それはこっちの台詞

 竹中にコクられて赤城さんはにっこりと微笑む。

 肯定の返事をもらえるだろうって思ってたのか、竹中もヘラヘラしてる。


「わたしね――」

「うん」

「人のこと貶めて悦に入るヤツって、大っっっ嫌い」


 笑顔を崩さない赤城さんの、辛辣な一言。

 けどそれ、人を出し抜く人のセリフじゃない。

 いろんな意味で、ふふふっと笑いが漏れた。

 松本も神奈ちゃんも似たような顔で笑ってる。

 みんな、わるよのぉ。


「あんたは新庄くんだけひっかけたつもりなんだろうけど、ウワサの相手はわたしの友達なんだよ。それも許せない」


 語気を強めた赤城さんに竹中は慌ててる。


「水瀬さんは被害者って立場なんだから――」

「男に騙されてホテルに連れてかれて捨てられたバカ女ってふうにもとれるんだよ。神奈ちゃんがそんなふうに言われる可能性を考えなかった?」

「そっ、それは……」


 竹中は口ごもった。考えてなかったな。


「すみませんでした! この通り謝ります。だからこのことは……」

「わたしは言わないよ。約束だもん。でも」


 赤城さんの目配せを合図に、僕達は立ち上がった。


「話は聞かせてもらったぞ。竹中ぁ、おまえそんなことするヤツだったのか」


 前半は偉そうに、後半は泣きが入った声だ。松本がなんか芝居がかってる。


 どっきり食らって呆然とする人みたいに竹中は固まってたけど、僕らの顔を見回して状況を把握したらしく顔を赤くした。


「お、おまえらっ、だましたなっ!?」

「それはこっちのセリフだ」


 ここは僕がびしっと言わないと。今までイライラした分、声に力を込めた。

 うっと詰まった竹中に畳みかける。


「あんなウワサを流して僕だけじゃなくて水瀬さんにも迷惑かけるなんて。謝罪してくれ、水瀬さんに」

「新庄さんにもだよ」


 すかさず水瀬さんがフォローしてくれた。


 竹中は悔しそうな顔のままだけど、ここで反抗しても分が悪いと思ったんだろう。「申し訳ありませんでした」と小さな声で言った。


「これからこんなことをしないなら、みんなには黙っとくけど、次はないから」

「次やったら今回の証拠も流しちゃうぞ」


 赤城さんがボイスレコーダーをチラ見せした。

 それまでどこかふてぶてしさを残していた竹中は、今度は青ざめた。

 赤くなったり蒼くなったり忙しいヤツだ。

 自業自得だけどな。


 竹中はもう一度「すみませんでした」って頭を下げてから、肩を落として店を出て行った。


「一件落着だね」


 赤城さんがウィンクした。

 いたずらっぽいその顔を見て、ほっと一安心だ。

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