72.二人の秘密

 喫茶店に戻ると(もちろんもう腕は組んでないけどちょっとだけ、ほんのちょっとだけ腕が寂しかった)、さっきと同じ席に赤城さんと竹中、低めの壁で仕切られた二つ隣の席に松本が座ってた。

 僕達は松本の席にそっと合流する。


「まさかあの二人、本当に付き合ってたなんて。しかも昼間っからよくやるよ」

「え? 竹中くん、あの二人が付き合ってるんじゃないかって言ってたよね」


 赤城さん達の席から会話が聞こえてくる。けれどちょっと離れてるから僕らは耳ダンボだ。


「えっ? あっ、いや、ウワサが流れてきてたから」

「さっきも言ったけど、わたしそのウワサの出所が気になるのよ。写真まであるって話なのに、その写真を出したのが誰かまでは突き止められてないのよね」

「それは、写真出したヤツが判ったら新庄がそいつに直接抗議するかもしれないから、みんな伏せてるんじゃないか?」


「わたしね、ちょっと調べたの」

 赤城さんが謎を解く探偵のような顔になった。

「写真を出した人まではたどり着かないけど、ある一人のところまではウワサがさかのぼれるのよね」


 竹中は何も答えない。息をつめて赤城さんの次のセリフを待っているみたいだ。


「それはね、竹中くん、あなたなの」


 これはもちろん赤城さんのはったりブラフだ。調べる時間なんてあるわけがない。

 けれど竹中には効果を発揮したようだ。少しの沈黙の後、竹中が告白する。


「実はそうなんだ。写真の出所の人物をかばってるのは俺なんだ」


 おっ、これは赤城さんのペースに持ってけるパターン来たな。


「それって誰? ねぇ教えて。わたしとあなた、二人だけの秘密にしましょ」


 赤城さんの声に少し力がこもった気がした。彼女もきっとうまくいくと確信したのかもしれない。

 壁越しにちらと見える席。赤城さんがぐっと身を乗り出して向かいに座る竹中に接近してる。


「二人だけの秘密……」

「うん。もちろん聞いたからってその人に確かめに行ったりしないから。新庄くんは神奈ちゃんと仲良くやってるんだから、わたし達も、ね?」


 ……これは演技、演技だっ。


「抑えて抑えて」


 松本に肩をツンツンされた。脱力する僕に水瀬さんが笑顔でうなずいてる。


「そっか、それなら――」


 竹中が居住まいをただしたようだ。

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