15.鮮やかな色

 僕らは腕を組んで笑顔で、喫茶店の前をゆっくりと歩いた。

 窓越しに赤城さんと竹中の顔と、二人の二つ横の席に身を隠すように座ってる松本の後ろ姿が見えた。


 赤城さんが竹中の注意を引くそぶりをしたので僕は窓から目をそらした。


 多分今頃「あれって新庄くんと神奈かんなちゃんじゃない?」なんてささやかれてるんだろう。

 竹中がウワサを流した犯人だとしたら、まさに「棚ぼた」だろうなぁ。「嘘から出たまこと」って感じで。


 喫茶店を通り過ぎてちょっとすると松本から着信ワンギリ。赤城さん達が喫茶店を出て僕達の後を追いかけようとしている合図だ。


 このままゆっくりホテルまで歩いて、中に入るまでが計画だ。


 昼間のラブホテルは、わりとひっそりとしたイメージだ。

 外が明るいから顔を見られたら困る人達はコソコソと入って行くんだ、って誰かが言ってたっけ。

 それが本当なら、なるほど隠れ家的な感じがしていて不思議じゃない。


 夜はそれこそ遠くからでも「あ、あそこラブホだな」って判るぐらい、建物の外壁を鮮やかなネオン色で照らし出してるのに。


「水瀬さんも、入るの初めて?」

「も、ってことはしんちゃんもだね」


 こんなことがなければ絶対になかった組み合わせで、絶対に入ることない場所へ入ってく。


 二人とも――少なくとも僕は緊張を忘れて、内装はどんなんだろう、ってちょっと楽しみだった。


 少し奥まったところにあるエントランスへと、腕を組んで歩いてく。


「なんかドキドキするね」

 水瀬さんが見上げてくる。


 僕は男にしては身長はそんなに高くないけど水瀬さんもわりとちっこいからそんな目線になる。女の子に、こんなそばで顎をあげて見上げられるのって経験ないから不覚にも少しときめいた。


 建物の中は、思ってたより質素だった。オレンジ系の照明でそんなに明るくなくて、待合のソファと、テーブルにウェルカムティー(小さい缶のお茶)が用意されてたぐらい。

 空き部屋の状況を知らせるパネルだけが妙に明るい。使用中の部屋はランプが消えているらしい。つまり、あんまり利用者はいないってことだ。


 まぁ平日の昼間だからなぁ。むしろ数組は使ってるんだってことに軽く驚いた。


 何もかもが初めての世界で、水瀬さんは「うわぁ、カラオケとか、ピアノある部屋もあるんだ」とパネルに見入ってる。無邪気だなぁ。

 しっかし、ピアノってなんであるんだろう?

 僕もパネルを見ながらそんなふうに考えてたら、松本から着信だ。


『そろそろ出てきていいよ』

「状況は?」

『これからさっきの喫茶店に戻るみたいだ。竹中、すっげぇニヤニヤしてる』


 うまく釣れたってことでいいのかな。

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