17.真っ直ぐ行って左

 赤城さんの立てた「犯人あぶり出し作戦」のとおり、僕と水瀬さんは松本とメッセージで連絡を取りながらラブホに向かうことにした。


 GOサインが出るまで近くの喫茶店で待機しつつ、赤城さんと竹中に会わないようにしながら、自然な形で見つけてもらうよう動かなきゃならない。


 結構難しくないか?


 でも一番難しいのはきっと、竹中と直接話す赤城さんだろう。喫茶店で適当に話をして場を持たせないといけないし、僕らを竹中に気づかせないといけないし、相手がクロかシロかはっきりするまで作戦を隠さないといけないし。


 バイトとはいえ諜報員エージェントなんてやってるんだから、うまくやってくれると信じてるけど。


 ちなみに松本は赤城さん達の様子をみながらこっちに指示を出してくれる役目。


 それぞれがそれぞれの役目を演じて、犯人を探し出す。

 こう、なんか、気持ちが盛り上がってきた。すごく緊張するけど、不思議と不安はない。


 水瀬さんも似たような心境らしく、わくわくしているのが顔に出てる。

 うん、このとっても素直な人はエージェントには向いてないかもね。僕も人のこと言えないけど。


 時間がくるまで適当に世間話をしつつ、松本からの連絡を待った。


 水瀬さんは明るくて面白い人だけど、裏表がない分、とんでもない爆弾を投下してくるから油断ならなかった。


「ねぇ、新庄くんはサユちゃんのどこが好きなん?」


 コーヒー噴きそうになった。

 適当にはぐらかしたら絶対つっこんで聞いてくる。

 どうしようか苦笑いしてたら、松本からの連絡が。神だ!


「あ、そろそろ移動しないと」

「ちぇっ。じゃあ今度応えてね」


 絶対次に会った時も覚えてるなこれは。

 好きな人の好きなところを彼女の友達に話すなんて恥ずかしすぎるだろ。

 そんなことを考えてたら。


「あ、新庄くん、まだ曲がらないよ。もうちょっとまっすぐ行ってから左」


 ぼーっとしすぎてたみたいだ。

 あははと空笑いしてると、スマフォが震えた。松本からだ。


 なになに? ラブホ行くカップルなんだからそれらしくしろ?


 そっ、それらしくっ? つまりそれは、もっと密着して甘い雰囲気出せってことだよな。


「松本くん、なんて?」


 水瀬さんがスマフォを覗き込んで「そっかー、そうだよね」って笑ってる。


「それじゃ行こっか、しんちゃん」


 その呼び方、ちょっと前に赤城さんがバカップル女を演じてた時のっ。覚えてたんだ。


 強引に腕を絡めてきた水瀬さんがいたずらっぽく笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る