23.奇妙な関係
「ウワサを逆に利用して犯人を誘い出す作戦を思いついたんだ。まずは強力な助っ人を呼ぼっか」
赤城さんはそう言いながらスマフォを取り出して電話をかけ始めた。
「もしもーし。サユだよ。今平気? ……あ、聞いたんだ。うん、そう、そのこと。ね、いかがわしいウワサを吹聴する極悪非道な輩を見つけ出して成敗しない?」
成敗? そんな誘いで乗ってくるんだ? 誰だ相手は?
「神奈ちゃんゲットだぜぃ」
電話を終えた赤城さんが、にんまりと笑ってる。ゲットされたのは水瀬さんか。なるほど「悪、即、斬」と言っちゃう水瀬さんなら納得だ。ってかウワサにされちゃった当人だしな。
「それじゃ、わたし達も移動しよっか」
「ここで話さないんだ?」
「昨夜遅くの出来事のウワサが次の日に大学で回ってるってことは、犯人は学内の人か、少なくとも大学に自然に出入りできる人でほぼきまりでしょ。ここで作戦会議してたらバレちゃうかもしれないじゃない」
「あ、なるほどー」
松本と赤城さんのやりとりを聞いて、バイトとは言えさすがスパイ、いや、エージェントだっけ。とにかく情報関係に強いなって思ったよ。
水瀬さんと合流して僕らはカラオケボックスに移動した。
赤城さんいわく、密室だし防音してるしではかりごとをするにはうってつけ、だそうだ。マイクを通した声なら隣の部屋にも聞こえるけれど、地声なら大丈夫ってにっこりしてる。
「赤城さん、頭いいなー」
松本はすっかり赤城さんのアイデアに感心してる。
おまえ、赤城さんに惚れるなよ? これ以上ライバルいらないし。
ライバル、っていえば。
「……恨まれる覚え、一つ、あった」
僕の言葉に三人が驚いて顔を見てくる。
赤城さん本人の前でこれ言うの、かなり羞恥プレイで恥ずかしいけど。
「竹中。この前のこと恨んでるかも」
みんな、あー、とため息。
「あいつにしたら新庄はライバルだからな。蹴落とすという意味もあるのかな」
「うっわ、サイアク。ほんとわたしああいうの嫌い」
松本の困り顔と、水瀬さんの怒りの声。
「でもそれならやりやすいよ」
赤城さんが目をキラキラさせてる。
「わたしが竹中くんを呼び出してね――」
僕が水瀬さんとラブホに入って行くところを見せつけて、ウワサの出所が彼かどうかの反応を見る、というのだ。
彼女の作戦を聞いて、松本と水瀬さんは「それいい」って乗ってる。
けど僕は。
「乗り気じゃない?」
「ごめんねぇわたしなんかが相手で」
赤城さんのちょっと心配そうな顔と、水瀬さんの軽い謝罪に僕は、いや、そういうわけじゃ、と曖昧に返した。
本当は赤城さん以外とそんなことしたくない。
って考えて、ぼっと顔が熱くなる。
「ちょっと、何想像したのぉ?」
水瀬さんと、赤城さんまでニヤニヤしてる。
「ラブホって想像しただけで照れてんのか? おまえってそんなウブだったのか」
松本まで茶化してきた。
「そんなんじゃない。もう、早く作戦に移ろう!」
こうして、僕と水瀬さんの付き合ってない奇妙なカップルがラブホへと向かうことになった。
竹中が本当に犯人なのか、うまく乗ってくれるのか、すごく不安だけど……。
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