58.限界

 僕と水瀬さんの写真を隠し撮りして、悪いウワサをばらまくのに利用したのは誰なのか。まずはそれを突き止めないといけない。


 松本の話をもう少し詳しく聞くと、主にウワサが出回ってるのは僕達のゼミとその交友関係が中心みたいだ。水瀬さんの身辺はまだちょっと判らないけれど、赤城さんが知らなかったことからして、そんなに広がってないんじゃないか、ってことらしい。


「犯人の狙いは見えてきたかな」

 赤城さんが言う。


 主に僕の周りで広まっていることから、おそらくターゲットは僕なのだろう、と。


「新庄くんは、誰かに恨まれるような覚えはない?」

 赤城さんが真剣な顔で尋ねてくる。


 恨みっつったって、僕に覚えはないけど相手が勝手に恨んでるってことまでは判らないよな。


「ま、それが判れば苦労しない、か」


 僕の表情を読んだのか、赤城さんは、うん、とひとつうなずいた。


 彼女はさらに続けた。

 僕は元々影が薄い方だからウワサは多分そんなに定着しないだろう。今はウワサに動揺しているゼミ生達も、放っておけば気にしなくなるんじゃないか、らしい。


 いや、沈静化してくれればいいけど、影が薄いって何気に僕のこと落としてない?


「いやぁ、実に正確な分析だと思うよ。さすが才女の赤城さん」


 こら松本、ニヤニヤして手ぇ叩いてんじゃない。赤城さんまで、そっかなー、なんて照れてないでよ。


「で、ね。ウワサが大げさに広まって新庄くんのダメージが大きけりゃ犯人の思惑通りだけど、多分そうならないから、これ一度で済まないんじゃないかなって思うんだ」


 えぇっ? 僕はもう十分にダメージ受けてるよ。


「これ以上やられたら限界越えちゃうよ」


 精神的ダメージもだけど、他の人巻き込むことに対する怒りゲージも振りきれそうだ。

 僕が情けない声で言うと、赤城さんは、ふふっと笑った。


「ダメよぉ? これぐらいで音をあげてたら、わたしの周りはもっとハードよ?」


 にぃっと笑う赤城さん。意地悪そうなその顔に、噴き出しながらも、不覚ながらドキッとしちゃった。


「わぁ、赤城さん、男をもてあそぶイケてる女みたいでカッコイイ」


 赤城さんの「裏」の顔を知らない松本が無邪気に笑ってる。


「イケてた? ま、さっきのは冗談としても、こういう時こそ気合いのいれどころだよ、新庄くん」


 ……なんだかんだ言って、励ましてくれてるんだ。

 そう思うと、何だか元気が出てくる。

 不思議だ。これが恋のパワーってヤツか?

 限界だろうがなんだろうが、やってやろうじゃないか。


「それで、どうやってあぶり出すの?」


 僕の質問に、赤城さんはまた得意そうな顔をして、作戦を話し始めた。

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