50.どうしてここにいるのだろう

 赤城さんは物じゃないから賭けの対象にするのは失礼だ。

 竹中に言い放ってやって、ちょっとしてやったりだったけど。


 僕らの後ろのテーブルから聞き覚えのある女の子の声がして振り返ってみると、そこに赤城さんと彼女の友達がいた。


 どうして、今このタイミングで、こんなところにいるんだろうか、この人は。


 竹中と話をする緊張から解かれた脱力から、やっと立ち直ってきたところにこれだ。僕はもう一回テーブルに突っ伏してしまった。


 感動した、と目をキラキラさせてるのは、赤城さんのお友達の方。この前カラオケに行った時に彼女と仲良くしてた活発な印象の人だ。


「新庄さんってヘタレだと思ってたけど、やるときはやる人なんだねー」

「ちょっと神奈ちゃん、それは言い過ぎだと思うよ」


 神奈ちゃんと呼ばれた女の子の余計なお世話な感動っぷりに、赤城さんは苦笑している。


「ごめんね。盗み聞きするつもりなんてなかったんだけど……」


 赤城さんは申し訳なさそうな顔をして、僕らに謝ってくれた。


「いやいや、偶然なんだからしょうがないよ。あ、どうせなら二人ともこっちの席に来たら?」


 脱力継続中の僕にかわって松本が話を進めてくれている。赤城さんと神奈ちゃんが僕らの向かいに腰かけた。

 どこから聞かれてたんだろう。むっちゃ恥ずかしいですけどっ!


「それが偶然じゃない……、かもしれないんだ」


 赤城さんが軽く首を振って言う。

 彼女のケータイに、竹中から「話があるから」って呼びだしがあったらしい。時間は僕らとの約束の十分後だった。


 赤城さんは、あんまり知らない男の人と二人っきりで会うのは乗り気になれなくて、友達と一緒でよければと返事ををしたんだとか。相手がそれでいいと返してきたから、神奈ちゃんと一緒に来たのだ。


「それって、俺らの話を聞かせるためなのかな」


 松本が腕組みして顔をしかめてる。

 なるほど。赤城さんの前で僕のかっこ悪いところを見せて幻滅させようって魂胆か。


「そうかもよー。あるいは恋のバトル参戦を告知したタイミングでやってきたサユちゃんにそのまま付き合ってくれって告白して、あわよくば目の前で奪っちゃうつもりだったとかっ。うっわーサイテー。勝負は正々堂々が基本なのに、そんなしょーもない駆け引きとか策略とか、許せないっ」


 サユちゃん……。あぁそうか赤城さんの名前が紗由奈だからサユちゃんか。


 神奈ちゃんが拳を握って宙をにらんで白く光る怒りオーラを出してる。

 いや、怒りオーラなんて実際には目に見えないからこれってもしかして闘気? ってことはこの人も極めちゃってる人?


「わー、なんかキラキラしてる」

 松本が目を丸くしている。


「ちょっと神奈ちゃん。ここでそれはダメだって」


 赤城さんが神奈ちゃんをなだめている。神奈ちゃんは「だってさー」とぶつくさ言いながらも白色オーラをひっこめた。


「……ひょっとして、前に新庄くんが言ってた『負ける可能性が高い勝負』って、このことだったの?」


 あぁ、やっぱり、気づくよね。


 心の準備できてないのに、まずい。この話の流れはマズイぞ。

 でもここでごまかしたってごまかしきれないだろうし。

 どうしよう?

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