53.幾つかの選択肢
竹中が無理矢理仕掛けてきた勝負の期日がやってきた。
僕にはいくつかの選択肢があった。
ダメ元で赤城さんに告る。
竹中に賭けを取り下げるよう頼む。
勝負を降りる。
でも、どれも選べなかった。
だって、根本的におかしいだろ、この話自体。だから決めた。
「で? おまえ何か動いたのか?」
前に何度か赤城さんとお茶した喫茶店で、僕と竹中が向かい合う。松本もついてきてくれていて、どっちの隣に座るかちょっと迷った後、僕の隣に座った。
竹中は僕が何も答えないうちから勝ち誇ったような顔をしてる。どうせ僕は何もできなかったはずと思ってるんだろう。
悔しいけど、基本的にその推察は正しい。僕は自分でも認めるヘタレだ。五日以内に動けって言われて動けるぐらいならとっくに自分から赤城さんに好きだって言ってるよ。
でもヘタレなりにも、自分で考えて結論を出すことだってある。
「赤城さんにアプローチはしてない」
僕の答えに竹中はふんと鼻で笑った。
「やっぱりなぁ。おまえの好きってその程度だったんだな。ちょっといいなって思った女を遠くから眺めてるだけで満足ってか」
「おい、そりゃ言いすぎ――」
「違うよ」
松本の援護射撃を遮って、僕は短く言った。
「何が違うんだよ」
途端に竹中が不機嫌そうになる。こいつ僕のこと笑えないぐらい判りやすい反応するよな。
「人に言われたから動くなんて違うと思った。僕には僕のペースがあるし、そもそも賭けの商品みたく扱うなんて赤城さんに失礼だ。赤城さんは物じゃない」
僕の言葉に竹中は顔を真っ赤にして睨みつけてきた。
「負け惜しみだな。理由はどうあれおまえは動かなかったんだから、言ってた通り俺も参戦させてもらうぞ。おまえがその気になった時にはもう俺の女になってるかもな」
面白くない、と言わんばかりに椅子を蹴倒す勢いで立ち上がって、竹中は行ってしまった。
ふあぁぁあ、脱力。
僕はテーブルに突っ伏した。
むっちゃ緊張した!
「頑張ったなー」
松本がぽんぽんと肩を叩いてねぎらってくれた。
「ちょっとぉ、今の感動したよっ!」
予想外のところから予想もしない声がかかった。
声がした隣のテーブルを見ると……。
僕も、松本もあまりの驚きに声を失ってしまった。
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