05.無かった事にしよう
えーっと、何の話だっけ?
混乱した僕の頭は、さっきの話をなかった事にしようとしている。
いやいや、自分から尋ねたんだし、ここは現実逃避している場合じゃないぞ。
「諜報員、って言ったよね? スパイってやつ?」
「うん。シークレットエージェントとも言うかな。そっちの方がなんとなくかっこよさげだから。そういうことで」
にこっと笑う赤城さんは可愛いけど、何がそういうことなのか、判らないんですけど。
「バイトで諜報員なんてできるもんなの?」
「あら、イギリスじゃ情報機関がフツーに求人情報出してんのよ」
むっちゃ当たり前みたいに言われたけど、そんなこと日本ではフツーあまり知られてないと思う。
「といっても、諜報員を求人してたわけじゃないんだけどね」
赤城さんが言うには、人材派遣会社の「極めし者求む」という求人広告を見て応募したらしい。そうしたら実は諜報員の募集だった、ってことだそうだ。なんだそりゃ、そんな無茶苦茶な求人があるか、って、実際あったんだよなぁ。
そう言えば極めし者ってなんだろう。
「極めし者って、さっきのかっこいい光だして戦ってたアレ?」
「そ、アレ」
極めし者というのは特殊な呼吸法でさっきの光、
オーラの力ってところか。ほんと特撮だな。
むっちゃ冗談っぽい話だけど、赤城さんの顔は嘘をついてる顔じゃないと思う。
「納得してもらった?」
「経緯は判ったよ。でももう一つ疑問なのは、実は諜報員の募集だったって知ってもそのままバイトすることにしたんだよね? それはどうして?」
「面白そうだったから」
……あっさりきっぱりすっぱりと、極上の笑顔で答えられて、やっぱり全部聞かなかったことにしたい気分になった。
「わたしはまだまだ極めし者としては弱い方なんだけど、これが人の常識を超えるような力なのは確かなのよね。だからわたしはちょっとぐらい危険なバイトでも大丈夫。けど新庄くんはパンピーなんだから、関わらない方がいいよ」
笑顔をひっこめた赤城さんが、さらに顔を近づけて「判った?」と念を押す。
危ないことに首突っ込むような性格でもないし、超人技も持ってないから、うなずくしかない。
「それと、できればこのことはナイショにしておいてね。もしもバイト中のわたしに会っても名前呼んじゃ駄目よ」
身バレしないようにってことか。
「判ったよ。けど、くれぐれも気をつけて」
「うん。ありがとう」
これで、諜報員だかエージェントだかの赤城さんとの接触は、終わるはずだったんだけど……。
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