02.だから言ったのに
僕は今、あこがれの女の子、赤城さんと、喫茶店で向かい合わせで座っている。
なんて幸せなんだ。これはチャンスだ。と普段なら思うはず。
人と話すのに緊張する僕だけど、こんな美味しいシチュエーションが転がり込んできたとあっちゃ、いつもよりちょっとだけ勇気を振り絞って会話ぐらいする。普段なら。
赤城さんは、なんでか知らないけど強そうな男三人に追いかけられていて、でもあっさりとやっつけてしまった。
その時に彼女の体が光ってて、あれは一体何だったんだろう。男達は「きわめしもの」って言ってたけど。そもそもどうしてあんな男達に追いかけられてたんだろう。
疑問ばっかり頭に浮かぶ。
珈琲が運ばれて来て、もう五分ぐらいになるけれど、大した会話もしないままだ。
赤城さんは店の中や窓の外を気にしてる。多分あの男達が来ないかと心配してるんだろう。
黙ったままってのは、それはそれですごくプレッシャーだな。
「あ、あの……」
話しかけてみた。自分の声がなんだかすごく頼りない。
赤城さんは、はっとなってこっちを見た。
「あぁ、ごめんごめん。お詫び言うの忘れてたね。ごめんね巻き込んじゃって」
「それはいいけど」
本当はあんまり良くない。何かあったらすぐに暴力に訴えそうな男三人と大接近なんて後から考えただけで身震いものだ。
でもやっぱり、赤城さんが今どういう状況なのかは、聞いてみたい。
僕の顔をじっと見て、赤城さんは口元に中途半端な笑みを浮かべた。
「いろんなこと聞きたいって顔ね。でも聞かない方がいいと思う」
なんだそれ。余計に気になる。そんなふうに言われたら聞きたくなるのが人ってもんでしょ。
「どうして?」
「簡単よ。危ないから。それにきっとすんなり『あぁそうなんだ』って納得できないと思うよ」
「じゃあ赤城さんは今も危ないってことだよね。人がすんなり納得できない状況なんだよね。それは、放っておけないよ」
だって君が気になるから、なんてことは言えないけど、好きな人がピンチなら助けになりたいって気持ちはある。
取りたてて何のとりえもない僕が力になれることってそんなにないとは思うけど。
「これはわたしの問題だから、新庄くんにこれ以上迷惑かけられないよ」
それって遠まわしに「あなたに話しても何の役にも立たない」って言ってるんだよね。
人の顔色ばかりうかがう癖が、隠された本心を見抜いてしまう。
「僕には何もできないかもしれないけど、たとえば、話してしまうことで気持ちに余裕が生まれるなんてこともあるかもしれないじゃないか」
僕の言葉に赤城さんは驚いた顔をした。それから、一つ溜め息をついて、うなずいた。
「確かにねぇ、誰にも言わないのって思っていたより精神的に結構ハードだし、話してしまったらちょっとは楽になれるのかもしれないね」
おっ、話してくれるんだ?
「じゃあ、言うわ。わたしね、バイトで諜報員やってんの」
……はぃ?
僕は何をどう返答すればいいのか言葉が出てこなかった。そもそも「ちょうほういん」ってなんだっけ? なレベルでパニクってる。
「だから言ったのに」
僕の反応を楽しんでいるかのような、ちょっと弾んだ声が赤城さんの口から洩れた。
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