09.真夜中の祭
バイトが終わった夜中近くの駐輪場で、突然やってきた同じゼミの赤城さん。
僕のひそかな憧れの人の後ろから、三人の怖そうな男が追っかけてきた。
僕が強い男なら、これがアピールのチャンスとばかりに「彼女に手を出すな!」なんてかっこいいこと言えるんだろうけど、僕がそんなこと言ったら殴られて終わりだ。ひじょーにかっこ悪い。でも何もしないのももっとかっこ悪い気がする。
「なんだこいつ」
「女の仲間か?」
こわそーなおにーさん達がじろりと僕をにらんできた。ひぇぇ、更に怖っ。
「……いや、こんなヘタレそうなヤツは違うだろ」
こっちが何か言う前に、即、否定された。うん、ヘタレって見解は正しいけど、むっちゃ当たってるだけにちょっと悔しい。
「こんな人知らないわ。ついでに言うとあんた達ともお近づきになりたくないから、これで失礼するわね」
赤城さんが、つんと澄ました顔で男達に言う。大学で見る彼女と全然違う。なんだろう、この張りつめた雰囲気は。
いや、それよりも、こんな人って言われてかなりショックだ。
「そうは行くか! こそこそとこっちの周りを嗅ぎまわりやがって。どこの差し金だ? あぁ?」
怖い人達が、ずずいっと赤城さんに迫る。うわ、うわわわ、どうしよう。
赤城さんは、平気な様子で男達と僕を見比べて「……しょうがないなぁ」とぼそりとつぶやいた。
え? どうするの? と首をかしげた僕の前で、赤城さんは大きく深呼吸した。
なんだ? 赤城さんの体から光があふれてきた。彼女の体の近くは白く光ってて、体から離れると緑色になってる。
うわぁ、特撮ものみたいだ……。
「げ!」
「極めし者かよ」
男達が慌てている。
きわめしもの? なんだそれ。
「くそ、構うか、やっちまえ!」
何が何だかわからない僕の目の前で、大乱闘が始まった。
状況もわからないままの僕をおいてけぼりにして祭りが盛り上がってる。
強そうな男三人と女子大生なんて勝負にならないはずだけど、常識とは反対の意味で勝負になってなかった。
赤城さんのパンチとキックで軽々と男達が吹っ飛ばされてく。そりゃもう、見ていて気持ちのいいぐらいに。
男達もかなりタフで、殴り倒されてもまた起き上がって来て赤城さんに掴みかかってる。でもその手は赤城さんに触れることはなかった。男達の攻撃をささっとかわす赤城さんのロングヘアがさらさらと揺れてる。綺麗だな。きりっとしまった顔は戦うヒロインそのままだ。
かっこいい!
感動していたら、男の一人がこっちをぎろっと見た。
あ、ヤバい。
僕の直感通り、男が向かってきた。
うん、わかってる。よけないと、逃げないと。でも体が固まっちゃって動けない。
「無関係の人を巻き込むんじゃないよ!」
赤城さんの凛とした声がして、まばたきもしない間に男が投げ飛ばされていた。
……助かった……。
そしてそれから一分もしない間に、大の大人の三人が、完全に気絶して地面に寝っ転がっていた。
すげぇ、すごすぎる。
「ちょっと、ぼさっとしてないで、逃げるわよ」
赤城さんに声をかけられて、はっと我にかえった僕は、彼女にせかされるままにバイクをおして彼女の後を追いかけた。
真夜中の祭りの後には、やっつけられた男達と、僕のたくさんの疑問符だけが残った。
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