第77話 一旦の別れ その1

 「そういえばさ、シュウ達のクランとかパーティって名前とかあるの?」

 「おおー、あるぞ!クラン名は【常夏ランド】だよ」


 ……ん?【常夏ランド】ってそれ……完全にいじられてない?


 「……ん。常夏、愛されてるから」

 「そ、そうなんだ」

 「俺は嫌だって言ったんだ!……でも、白雪がそれがいいっていうから」

 「他のメンバーも面白がっちゃって、β版からそのまま継続してるのよ」

 「そうなんだー」

 「そうそう。クラン名を【常夏ランド】にしとけばクランリーダーも押し付けられるねー」

 


 あ、うん。やっぱり押し付けられたってのであってたんだー……


 「だよねー。【常夏ランド】なのに違うひとがリーダーとかおかしいもんねー」

 「……ぐっ。せめてもの抵抗としてだな、俺の苦労を分けるためにシュウを副リーダーに指名したんだ。あのときの俺、まじナイス判断」

 「はぁ……そのおかげで尻ぬぐい担当がオレってわけですよ」

 「まー、指名されなくてもシュウが副リーダーに選ばれただろうけどね?パーティリーダーもやってたわけだし」

 「……ん。押し付けるのに最適」

 


 へぇ、なかなか苦労してそうだけど……2人を見てると結構いいコンビって感じする。

 クランリーダーは常夏だけど、パーティリーダーはシュウなんだって……一瞬どっちが偉いんだろ?って思ったけど、そこは上手いことやってるらしい。

 それとベルたちのパーティはアリッサがリーダーだってさー。


 

 「あ、ちなみにうちのクランはパーティ名とかは決めてなくて1班、2班って感じかな」

 「へー、パーティ名って決めたりしないんだ?」


 みんな決めてるのかと思ってた……


 「ああ。【雷鳴の夜明け】とか【もふもふし隊】、【温泉同盟】とか自分で名乗ってる奴もいれば周りが勝手に呼ぶパターンも結構あるな」

 「そうね……自分で名乗ると厨二病全開になること多いから」

 「ちなみにシュウ達1班は【強者の楽園】て呼ばれてるね~」

 「……ん。略して楽園さんて呼ばれることもある」


 おおー、なんか強そう……由来は弱者にとっては地獄のような前線を、楽園のごとく攻略する姿からじゃないかって話。誰かが勝手に呼び出したらそれが浸透したってことみたい。シュウ達パーティはメンバー全員がβテスターでテスター時とはそれぞれ職業とかスキル構成とかは変えたらしいけど結構上手くいってるんだって。


 ちなみに【雷鳴の夜明け】っていうパーティはガチ勢でルガルフへ1番乗りしたひと達でイベント上位入賞常連さん。

 【もふもふし隊】はパーティメンバー全員がテイマーで、もふもふしてない魔物はいくら強くてもテイムしないことで有名なんだって。

 【温泉同盟】は温泉を掘り当てるためだけに前線を走り回ってるんだとか……そういえばイベントの時に温泉の話してたひといたなー?見つけられたのかな?あ、ハリーに聞けば温泉とかわかるのかも。


 他にも色々と有名パーティがいるらしいけど、総じてクセは強いらしい。


 「ベルたちは?呼び名はないの?」

 「わたしたちは特に……シュウたちほど有名じゃないから自分で名乗らない限りはつかないんじゃないかな?」

 「……変な名前で呼ばれるよりまし」

 「それはいえてるわね」

 「だね~」

 「そっかー……ん?アリッサはイベントのトップ10に入ってるのに有名じゃないってどういうこと?」


 一瞬納得しかけたけど、イベントのトップ10入りとか有名になっててもおかしくないよね?


 「あー、アリッサはβ版からしてるから割と有名だけど……わたしとタミルは第1陣組だからねー」

 「ね~」

 「……ん。あたしはβ版からだけど、回復には聖女の有名人がいるから」


 へー……聖女って呼ばれてる(二つ名っていうらしい)ひとがいるから、ルティはそこまで目立ってないんだってー……あと、タミルもベルと同じでβテスター特典でゲームの招待コードから入ったパターン。ちなみにβテスターだったのはクランメンバーで生産組の実弟だってさ。


 ふーん……これだけ美女&美少女が揃ってるから、密かに呼ばれてる名前がありそうな気もするけどなぁ……





 そうそう。イベントで交換した守護シリーズ……どっかで見たことある模様だなーって思ったらマシンナリーさんたちが使う特殊な言語なんだってー!戻ってきたハリーがわたしの装備を見て教えてくれたの。

 特殊な言語っていうのは……ほら、本とか転移陣にあるやつね?

 ハリーが言うには装備にマシンナリーさんたちの文字で効果が書いて(刺繍して)あるらしい。


 「ガガ……リリーノローブハ……ガガ、MP微回復、VIT+2、INT+5、STRー5カ……ナカナカノ物、ダナ?」

 「……え?」

 「ガガ……ブーツハ、AGI+10ナノ……ダナ」

 「いやいや、なんでわかったのー!」


 って感じで、突然ハリーがわたしの装備の効果を当てるからびっくりしたんだよね。


 「ガガ……全テ記シテ有ル、デハナイカ」

 「まじかー」


 さも当然みたいに言われても……


 「……これをひたすら研究したらスキル生えるかも?」

 「そうすれば、ゴーレムが我が手に?」

 「やるしかないね~」

 「ええ」

 「ん」

 「でもみんなもうポイント交換済ませたよね?装備交換したの?」

 「「「あ」」」

 「こ、こうなったらリリーの装備を見つめ続けるしかないわっ!」

 「「りょうかい」」


 いやー、美女&美少女からひたすら見つめられるとかどんな罰ゲーム?これ、アリッサたちのファン(いるかは知らない)のひとだったらめちゃくちゃ喜びそうだけど……


 「てか、アリッサ……上位入賞してんだからポイント余ってないのか?」

 「えー、そんなの余って……あ!バンダナなら交換できるわ!」

 「「まじっ?」」

 「ええ、さっそく交換するわね」

 「「わかった!」」


 お揃いですねー……いや、床に丁寧に広げたバンダナを囲んで正座って……本気度がすごい。そのうちに本当にスキル取得可能になりそう……もし、そうなったらわたしも正座で装備を凝視するしかないな、うん。


 文字なのにお洒落……あれだね?英語のTシャツ、なんて書いてあるか意味わからないけどかっこいいから着てる……逆に外国の人が日本語Tシャツ着てる感じともいう。

 ん?ハリーが簡単に読めるってことはマシンナリーさん達からしたらどんな効果の装備か丸わかりで……敵に回したらヤバそうなんですが……うん、新型のマシンナリーに出くわさないよう細心の注意を払って行動しよう。


 

 交換も済ませたことだし、そろそろ……ってことでハリー達とは一旦お別れとなる。

 クリスタルやコアはゲーム内で1週間以内に連絡がなければこちらで交換して転移陣に置いておくことになった。どうやらハリー達が自分で回収してくれるらしい。

 そして、ハリー達の準備が整った場合は転移陣の間に合図を送ることになった。もし、1週間以内に連絡があれば、お金を貯めておいてハリー達と合流してからクリスタルに交換することに決まった。うん、お金稼ぎ頑張らないとっ。

 基本的に転移陣の間に合図(準備完了ならゴーレムの部品を、緊急事態なら壊れたコアをってシュウとハリーが色々と細かく決めたらしい)を送って連絡を取ることになったため、しばらくは天籟の鐘の情報は売らないことに決まった。


 みんなも天籟の鐘の地下道を回ってどこへ辿り着けるかや、新たなモンスターとの戦闘に心踊らせている。

 誰かしら毎日転移陣の間をチェックする予定(みんな地下道に入り浸るらしい……ルガルフよりこっちを優先するんだって)なのでハリー達からの合図を見逃す心配もないだろう。

 ルガルフの方に攻略組が行くとはいえ、天籟の鐘もワールドニュースになるくらいの出来事があったと判断するプレイヤーがいてもおかしくないらしく、天籟の鐘からの出入りは慎重に。検証班や他のプレイヤーがいるときは極力避けることになった。その場合はその近辺で魔物を狩りまくって時間を潰し、プレイヤーがいなくなる隙を狙うらしい。

 入る時はともかく出る時はひとがいるかどうかわからないんじゃないの?……って思ったら、地下にいても気配察知でわかるらしいので出口で鉢合わせすることはないんだとか。わたしの気配察知とはレベルが違うってことですねー……うらやましい。


 「じゃ、そろそろ行くかー」

 

 少し名残惜しい気もするけど、またすぐに会えるはずだから……それまでにできることを頑張らなくちゃ!


 「「「「「「「……じゃあ、またね(な)!」」」」」」」

 「ハリー、マタネー!」

 「ガガ……アア、近イウチ二マタ、会オウ」

 

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